【ミレイ】を褒める

2022年7月11日

<緻密な描写であるべき姿を描いたラファエル前派の代表画家>

今回、褒め称えるのはラファエル前派の代表画家ミレイです。『落ち穂拾い』を描いたミレーじゃないよ、ミレイだよ。ミレーのファンの皆様、ミレーの褒め記事も書いてますのでご安心ください。今回はミレイについて書かせていただきます。というのもTwitterにて、私の大切なお友達の一人の“凪さん”が、ミレイの代表作『オフィーリア』を「好きだ」と引用されているのを見て、私自身も同様にこの『オフィーリア』好きだという気持ちがシンクロしてしまい居ても立っても居られなくなったからです。(画像は大塚国際美術館さんの陶板から)

『オフィーリア』はシェイクスピアの『ハムレット』に出てくるヒロインで、恋人に父を殺され発狂して溺死したシーンを多くの画家が描いています。ルドンの描く『オフィーリア』も秀逸ですが、やはり人々の頭に最初に出てくるのはミレイのそれでしょう。川の流れに逆らうように横たわるオフィーリアはまぶたが開かれていて物悲しげな雰囲気を醸し出しています。失意のもとこの世を去った悲劇のヒロインを完璧に描き切ったミレイ。実はミレイはこのようなストーリー性のある画題を得意としています。ミレイは物語を緻密な背景の描写、小道具等の描写によって語っているのです。例えばこの作品においては多くの花を描くことで生と死の対比により、命を無くしたオフィーリアの儚さを表現しています。また川の流れの動に対して動かなかくなったオフィーリアは生死だけでなく、どうにもならない自然の摂理というか運命のようなものに抗えない人間の非力さも描いていると言われます。『ローリーの少年時代』という絵においては着ている服や構図、それぞれの目線で立場がわかるように描くなどの工夫が凝らされています。言葉を持たない絵画作品に、説明を与えるという技術に長けていた画家だったのです。

ミレイは両親の深い愛情のもと育てられ、そのお陰で卓越した情緒を育まれたのではないでしょうか。それは前述のとおり絵画において優れた表現となって現れ、ロイヤルアカデミーに史上最年少で入学を許されます。後に会長にまで上り詰めるミレイですが、そこまでは波乱万丈、かなり奇異な人生を辿ることになります。彼はルネサンスの巨匠ラファエロが、最も権威ある画家として評価されていることに異を唱えます。すなわち誇張した美しさや人間的で作為的な構図、多くの場合、背景は実際のものではなく、額縁のように後付けされたものでした。私はラファエロの大ファンなので、それを否定されるのはどうにも悲しいのですが、ミレイの言いたいことはわかります。彼は、芸術は自然の実際の観察に基づくべきだという主張から、ラファエロ以前の作風に戻るべきだとの見解を示します。これに呼応したロセッティ、ハントらとラファエル前派を提唱・設立したのでした。ミレイは実際の背景に忠実であるべきという考え方から風景や静物のディテールまでこだわりぬき、緻密で確かな描写を実現したのでした。作品を描くために前もって何枚も何枚も素描を用意したというから驚きです。とても作業量を要する作成方法となりました。そして緻密な計算のもと描かれた作品は『オフィーリア』の背景に見られるように、実際の自然の中でオフィーリアが横たわっているシーンを写真を見るかのごとく描き切っているのです。それは息をのむクオリティです。この緻密さは予想もしないところで功績を残しています。それは作品の劣化を防ぐというものです。細かい描写のため小さい筆を使い、色が混じるのを嫌ったミレイ。そして画材を大切に使ったおかげで作品の保存状態が極めて良いとされています。モノを大切に扱い、作品に大切に向き合ったミレイ、素晴らしすぎます。

しかしながら、ミレイの評価は生涯安定することはありませんでした。安定した生活は得られていたものの、作品に対しては、やはり革新的すぎたのか批判のほうが強かったようです。しかも設立したラファエル前派は短命に終わり、ロセッテイとは袂をわかつ始末。また女性問題でもロセッテイのように恋愛遍歴が破天荒だったわけではないのですが、支援していたパトロンから略奪婚をおこしてしまい、寵愛されていたヴィクトリア女王からも奥様の謁見を許されたのは死の淵だったという暗い影も持っていました。ただ、家庭は大切にしていて8人の子供に恵まれ、その幸せは彼の作品に多くの子供が登場することからも明らかです。『シャボン玉』『午後のお茶』はぜひ見てもらいたい作品ですね。また死の間際にヴィクトリア女王に望んだことが「妻の謁見を許してもらうこと」だったことから、略奪婚とは言え、奥様を生涯愛し続けたミレイの愛情は、決して非難されるものではないと思っています。

おすすめ10選

『オフィーリア』

『シャボン玉』

『午後のお茶』

『盲目の少女』

『ロンドン塔の王子たち』

『ローリーの少年時代』

『ブラックブランズウィッカー』

『落葉』

『マリアナ』

『ジャージーのユリ』