【2010年読書ランキング】で褒める

2021年10月11日

2010年読書ランキング

  1. 『終わらざる夏』浅田次郎
  2. 『孤宿の人』宮部みゆき
  3. 『Another』綾辻行人
  4. 『凍花』斉木香津
  5. 『ストーリー・セラー』有川浩
  6. 『鉄の骨』池井戸潤
  7. 『マリアビートル』伊坂幸太郎
  8. 『悪の教典』貴志祐介
  9. 『かあちゃん』重松清
  10. 『天地明察』冲方丁
  11. 『凍りのくじら』辻村深月
  12. 『傷だらけのビーナ』桝田省治
  13. 『プリンセス・トヨトミ』万城目学
  14. 『プラチナデータ』東野圭吾
  15. 『完全なる首長竜の日』乾緑郎

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「終わらざる夏」浅田次郎

誰も知らない北の孤島での戦い、戦争はまだ終わっていなかった・・・。迫り来るロシアの脅威に対し数奇な運命に翻弄されながらも自らのプライドをかけて戦った男たちの生き様を力強く描き出す。戦争というものを多視点で捉えた浅田次郎渾身の超大作。故三宅久之氏も絶賛の作品だった。

②「孤宿の人」宮部みゆき

捨て子のように置き去りにされてしまった主人公。恵まれない環境ながらも常に温かい人の輪に囲まれて成長していく。やがて怪奇な凶事がふりかかるのだが、意外にも感動的な結末へと導かれる。主人公の人生につまった物語全てが最後の最後にほろりと涙を流させるのだから、宮部さんは上手い。

③「Another」綾辻行人

不思議な少女の主人公は何故かクラスメイトからムシされていたのだが、その理由は恐ろしい呪いによる死の連鎖だった。張り詰めた緊張感ある文体が特徴的なサスペンスホラー。それでいて学園モノとしての要素もしっかり取り込まれており、ラストはこのジャンルの作品には珍しくとても落ち着きとまとまりあるものだった。

④「凍花」斉木香津

この年の暮れにはじめて斉木香津さんを知り、初読みとなったこの作品はとんでもない衝撃を与えるものだった。仲の良かった3姉妹がばらばらに。なぜ長女は次女を殺してしまったのか。人の心はどこまで知っていいものなのか、知らない方が幸せなこともあるのか。真相を知ったときの三女の決意が読者の心を揺さぶる。

⑤「ストーリー・セラー」有川浩

これまでの有川作品とは一風違った、どちらかというと真面目なラブストーリー。夫婦の尊い絆が見事なまでに映し出され、普段のラブコメのようなおどけた展開は全くなかった。その分、文面から溢れ出る想いはとても切ない。B面の作者の仕掛けにも驚かされてしまう。泣ける一作。

⑥「鉄の骨」池井戸潤

ビジネスを舞台にした社会派作品はお手の物の池井戸氏。今作は小気味よいテンポでゼネコン談合社会を強烈に皮肉っている。高い理想を掲げる主人公の前に立ちはだかる悪しき過去からの慣習。働く人全てに読んで欲しいと思える問題作。注目を浴び始めた頃の池井戸氏の代表作と言えよう。

⑦「マリアビートル」伊坂幸太郎

「グラスホッパー」に続く殺し屋たちの狂騒曲第二章。どたばた感は今作でも健在でとにかく面白い。人間描写にも長けており魅力溢れる登場人物が次から次へと活躍する。もちろん前作から再登板のメンバーとも懐かしい再会。騒々しいテーマとは裏腹に、構成は緻密で入念で完成度は非常に高い。

⑧「悪の教典」貴志祐介

とにかくとんでもない小説だった。巧みな心理戦の上巻から血生臭い殺戮の下巻へ。かつて「バトルロワイアル」が社会現象となったように、この作品も映像化されてかならい物議を醸した。最悪のモンスター教師の最後のセリフは背筋も凍るものだった。狂気は五十嵐貴久さんの「リカ」か今作か。

⑨「かあちゃん」重松清

「とんび」が全国の父親に向けた感謝の作品とするならば、「かあちゃん」はそのタイトル通り全国の母親に向けた感謝の作品だろう。連作形式で様々な母親の愛の形が綴られる。母親の子供を思う気持ちはあまりに重く悲しく痛く、そして温かい。母の日にはこの作品をプレゼントしたいものだ。

⑩「天地明察」冲方丁

本屋大賞受賞作品として人気を博し、その出来の良さが喝采をあびた作品。主人公の春海が挑む太陰暦制作という壮大なプロジェクト。彼の挫折と喜びがつまった波瀾万丈の人生は誰もが心震わされるものだった。算術を極めるだけでなく測量技術や測量のための気力体力も必要となり、まさに国家歴史を動かす革新的な事業を実感する。

⑪「凍りのくじら」辻村深月

辻村深月という作家がただのミステリ作家にとどまらないことを証明した作品ではないだろうか。主人公は決して完璧ではないが、強さも弱さも含めてとても人間らしい。ドラえもんの道具をオマージュとしながら、紡ぎ出す物語は切なくも愛おしさが溢れている。無難な結末は安定感の表れであり、辻村深月ワールドの原点ともなる。

⑫「傷だらけのビーナ」桝田省治

単行本の装丁からわかるようにファンタジー系のライトノベル。主人公は骨のある人物でとても輝いている。村を襲った虐殺からのたった一人の生還者として最後の最後まであきらめない戦いを繰り広げる。主人公の弓には精霊がが集うが、それらは敵なのか味方なのか。荒削りだが力強い小説。

⑬「プリンセス・トヨトミ」万城目学

大阪在住の私にとって馴染み深い場所が描かれており、本当に歴史を感じる町であることは伝えておきたい。日常の中にこのような壮大で歴史的な裏側を見せられては心躍らずにいることなどどうしてできようか。もちろん仮想社会ではあるが、大阪では近い将来こんな現実が・・・いやいやそれはない。

⑭「プラチナデータ」東野圭吾

現代の捜査に欠かせないものとなったDNA鑑定をテーマにしたとても考えさせられる作品。しかしこんなテーマを背景にしてもそこは東野さん、あくまで主題は人間ドラマにおいてある。設定がSFなので突飛な部分もあるが、それは「秘密」も同じ事。人間心理の機微が際立っており、結末シーンはその集大成とも言えるだろう。

⑮「完全なる首長竜の日」乾緑郞

いささか冒険的で試行錯誤しながら実験的に書かれているきらいはあるが、私自身はこの手法はアリだと思った。途中、現実と虚構の世界が交錯しすぎて境界線がわからなくなるのは、読み手の困惑なのか、書き手の思惑なのか。これこそがエンタメであると言われるとグウの音も出ない。