【ルドン】を褒める

《人生の好転とともに大きく画風を変えたナビ派のリーダー》

ルドンの絵について聞くと、ある人は「とても不気味な絵」「モノトーンで暗く陰鬱な印象」と言います。またある人は「落ち着いた花の絵」「色彩豊かで華やかな印象」と言います。どうしてこんなにも正反対の意見が出てくるんでしょうね。ちなみに私、最初は「気持ち悪いクモの絵(お好きな方ごめんなさい)」という印象で毛嫌いしていました。それもそのはずルドンは実際、初期の頃は奇怪で不気味な絵ばかりを描いていたのですが、やがて光と色彩を自由に操り、軽いタッチで風景や花を美しく表現したのですから。この変化にはルドン自身の人生の変化が大きく関わっていることがわかっています。

ルドンはモネと同じ年の生まれです。けれども隆盛を誇った写実主義にも、ここから台頭する印象派にもくみせず独自路線を歩み始めます。「どちらも外面にこだわりすぎ」「作品はもっと内面を映し出すべき」という考えからです。普通とは違うアプローチを取ろうと試みたルドンですが、彼のパーソナリティがアプローチの仕方に影響を与えます。

彼の育った土地は風の吹きすさぶ寂しい荒野で、人との交流がなかなかできないところでした。生きていくのにも必至で、時には死さえ頭をよぎる壮絶な環境で、ルドンは不安におびえながら育ちます。それゆえ孤独な人生を送り、陰気な世界観を持つようになったのです。一方でその背景はルドンの画家としての人生を後押しする形となります。その土地ならではのインスピレーションを受けたルドンは風変わりなテーマに次々取り組んでいくのです。すなわち人間の顔を持つ植物や動物、さらには怪しい骸骨など、他人が見るとおどろおどろしいような作品が手掛けられたのでした。もちろん、陰気とはいえ、作品のクオリティは高く、単色画でありながら、線や質感、トーンをうまく利用して神秘性を表現したのです。ここには鉛筆画で異彩を放ったデューラーの影響もあったようです。色を使わなくても見事に作品価値を高めたこの時代を、彼自身「黒の時代」と呼んでいます。

そんなルドンに訪れた大きな転機、それは40歳にして結婚をしたことでした。それまで孤独だったルドンに交流が生まれたのです。ゴーギャンと親交を結び、最後の印象派展にも出展を果たしたルドン。またルドンを深く愛した妻のおかげで、次第にルドンの周りには若き才能が集まり、交流を重ねていったのです。彼らはルドンの芸術に共感を示し、いつしかルドンはナビ派のリーダーとして活躍することになるのです。初期の恐怖や死への強迫観念などは姿を消し、ここにルドンの画家としての第二章が始まるのです。

50歳にしてはじめてカラー世界を描いたのは驚きですね。ついに開放されたルドンの色彩感覚。それは色彩の魔術師シャガールさえ彷彿させる見事な配色を見せ、これまでモノクロームの作品しか残していなかったのがウソのようです。文字通り鮮やかな変身を見せたルドン。けれども本質は変わっていなかったのです。若き日に誓った「内面世界を映し出すべき」という信念は画風が変わってからも一貫していました。彼の精神は、孤独から安らぎを手にしており、その安らぎが「花」に帰結し、その落ち着きや華やかさに繋がったのです。もともと荒野で育ち、並外れた想像力をもって突き進んできたルドンにとって、色彩を得たことは水を得た魚同然。詩的幻想を表現し、神秘的な作品で私達を楽しませてくれるようになったのです。

「ヴィオレット・エイマンの肖像」では花々が人物をかたどるというフォルムを創出。鮮やかで色彩豊かなその花はこの世では見られない花です。目に見えるものの論理を目に見えないもので構築した、文学的であり幻想的である画家となったルドン。晩年は花ばかり描いていたルドンですが、それは妻がルドンのために大切に育てた庭の花だっと言われています。奥さんのこともしっかり褒めてあげたいですね。

おすすめ10選

『ヴィオレット・エーマンの肖像』

 

『花のなかのオフィーリア』

 

『アポロンの馬車』

 

『ヴィーナスの誕生』

 

『神秘』

 

『勝ち誇るペガサス』

 

『仏陀』

 

『秘密(囚人)』

 

『笑うくも』

『青い花瓶の花』