【『復活』トルストイ】を薦める

2021年6月12日

読書のススメ(5分で読めるよ)

私の読書人生の中で最高の作品は何かと問われたら、迷わず「トルストイの『復活』です」と私は答えます。

また“褒め屋”の活動の原動力は何ですかと問われても、「トルストイの『復活』です」と答えることでしょう。

この作品のテーマは「偽善」「真実の愛」ということになるのではないでしょうか。ある裁判の陪審員として裁判に参加した主人公・ネフリュードフの前に女囚として現れたのは、かつて自分が辱め、捨ててしまった使用人の娘のカチューシャ(マースロワ)でした。無実の罪でシベリア流刑となったカチューシャを助けるために、必死に働きかけるネフリュードフですが、当のカチューシャがその恩を受けようとしないのです。すなわち、彼女を助けることでネフリュードフが自身の罪の意識から解放されようとしているというのです。このテーマはいまだに多くの物語やドラマで飽きるほど見るものですが、私はすべてこの「復活」が世に投げかけた大きすぎる宿題であるからだと感じています。そして議論される「偽善」。私自身の“褒め活”において何度も自身に問いかけ、何度も周囲から問われたことでもあります。

カチューシャを救う動きの中でネフリュードフは社会の不条理や世の中の不公平さに嫌気がさし、貧しい民に領土を分け与えようとしますが、これまた喜ばれるどころか反感を買うのです。「憐憫」はかえって彼らを貶めるとされ、彼の「純潔」はむしろ奇異に映ったのでした。深く悩み苦しむネフリュードフですが、いつしか彼の思いは自身の罪の解放から、真の愛情へと変わっていきます。それに気づいたカチューシャが一体どのような行動をとるのか。この後、二人に運命の決断を迫られるときがやってきます。しかしながら、下された決断を我々が目にするとき、その驚くべき結末をも「妥当である」と受け入れられるにまで到達していることのほうが驚くべきことではないでしょうか。ここに文豪・トルストイの見事な筆致と描写が結実したと言えるでしょう。

私はこの作品を読んで以来、「偽善」に対して臆することがなくなりました。正しいか正しくないかではなく、私はこの作品で受けた感動を元に、自身の行動を行うという決断ができるようになりました。“褒め屋”という活動はこの作品が背中を押してくれたとも言えるのです。

レビュー

<読みやすさ>

決して読みやすいとは言えません。むしろ読みづらいかもしれませんが、それほど重厚なテーマですし中途半端には扱えないものであると思うのです。それこそが作品の価値を高めているように思えます。

<面 白 さ>

面白いという類いのものとは違うような気がしますが、強烈に関心を持つことでしょう。また物語の行方から目が離せません。それを面白いというのであれば、間違いなく面白い作品です。読み応えがあります。

<上 手 さ>

難解なテーマを扱っているにも関わらず、とても明快な解答に導いてくれます。また複雑な心情をわかりやすく伝えているあたりは見事で作家の巧みさにため息が出るほどです。

<世 界 観>

本当の大きな世界観というのはこういう作品のことを言うのだと思います。舞台や設定が大きいのではなくテーマや問題がとても大きいのです。それらをとりまく環境や状況について非常に奥行きを感じます。

<オススメ度>

最初の「おすすめ作品」投稿記事に選んだことからわかるように、現時点で私の一番のオススメです。当然、私のナンバーワンの愛読書であり、この30年間あまり、それは変わることはありませんでした。