【ミロ】を褒める

《夢幻的な表現の追求に邁進した生粋のシュルレアリスト》

ミロの絵を最初に見たときの印象は誰しもこうではないですか? 「何!?子供のいたずら書き??」 前衛芸術の中でもかなり特異でどこかしら幼さを感じるような画風に戸惑った方がほとんどかと思います。実際、今でもそのように感じることがないわけではありません。岡本太郎さんの「太陽の塔」が少し似ていますかね。そして私は現代アートの理解が不十分なため、私なりの理解でしか褒められないかもしれません。けれども、そんな理解が至らない私でもミロの絵は大好きだと言えます。そして不思議に思いませんか。あんなに写実性も統一性もなく、理解不能な世界観でありながら、インテリアに見事に映えるミロの作品の数々。通常では考えられないのですが、なんとも計算され尽くした調和の美、融合の美を持っているのです。そこには一見、稚拙に見える作品の中に、ミロの非凡な才能、多才であり天才であり秀才であったミロが、その表現方法に実験に実験を重ねて追い求めた究極の世界観が秘められているのです。

よくよく見れば大胆な色の広がりは比類するものがなく、それでいて繊細に引かれた線はデリケートな心情を映し出し、全体を見渡せば見事な装飾品としてその場をミロの世界観で彩ってしまう、こんな作品を描けるのはミロしかいないでしょう。そんなミロはブルトン提唱の「シュルレアリスム」の代表的な作家として世界にその名を轟かせています。

バルセロナに生まれたミロ。幼い時から画家を志望していたのですが、父親は全く相手にせず薬局の帳簿係をさせました。なんでも、我が子に才能はないと思い込み、あきらめさせるために少し絵をやらせたくらいだそうです。ここで生来・天賦の才を持ったミロは、仕事のあまりの退屈さ、創作エネルギーの抑圧に耐え切れず精神を病んでしまいます。仕事のしんどさ、難しさや、アイデアの枯渇などで精神を病むというような話はよく聞きますが、ミロの場合は全く逆の理由で病んでしまったというのも驚きです。
療養後、美術学校へ通い、そこでフォービズム・キュビズムと出会ったミロはパリに出て同郷のピカソを訪ねます。快く迎え入れてくれたピカソはミロの絵を購入してくれたものの、他は全く売れずじまいで苦しい生活が続きます。両親は相変わらず芸術活動には否定的で金銭的な援助もほとんどなく、貧しい生活を余儀なくされます。

ここで素晴らしいのがミロの才能の発揮の仕方です。なんと極度の空腹が生み出す幻覚や幻惑を元に絵を描き始めたのです。自身の豊かな想像力を存分に発揮し、不思議な世界を作品に描き出したというのです。ミロの場合、このような自発的な意志というよりも、湧き上がるものをそのままに描くことが生涯続きます。「何かを見て想像するのではなく、頭で考えだすのでもなく、イメージに湧いて出た詩的な夢想を再現する」とのこと。こうして、その不思議な世界観は夢幻的な新鮮さと自然な躍動感を持って生き生きと、ミロの画風を構築したのでした。そしてそんなミロに大きな出会いが訪れます。「シュルレアリスト第1宣言」を出しミロを「最高のシュルレアリスト」と評したブルトンとの出会いがそれです。これに呼応したエルンストやマグリットらと同じアトリエで制作するなど、ミロの才能は一気に認められていくのだから、人生何が起きるかわからないものですね。

その後、結婚し、娘ももうけて幸せ絶頂のミロでしたが、よいことばかりが続くわけではありませんでした。ピカソが「ゲルニカ」にて批判をしたスペインの内戦がおき、ミロも心を痛めることになります。『スペインを救え』で得たお金をスペインのために使うなど祖国救済のために奔走したミロの愛国心にも頭が下がる思いです。やがて第二次世界大戦に突入し、ミロはあまりのショックに「私は酷く消沈している、生きる根拠が全て永遠の淵に沈んでしまった」とまで残しています。

それでも戦後は再び精力的な創作活動を開始し、すでにアメリカをはじめ多くの国で国際的名声も得ていたミロに多くの依頼が舞い込みます。特にこの頃から壁画など大きな作品も手掛けはじめ、ミロの作品はより多くの人の目に触れるようになっていったのです。

ミロの作品の特徴はさらに抽象的になっていきます。表現への追求はとどまることを知らず、より単純化されていったり、より形を変えていったり、より記号化、シンボル化され、もはや元のフォルムなどは存在しなくなっていきます。伝統的な美の基準から完全に解き放たれ、湧き上がる精神世界に重きが置かれるようになります。そして何よりミロの褒めポイントでもあるのがこの点でもあるのです。形を失い子供の落書きのように見えてしまう作品をよくよく見てみると、そこに「ユーモア」「希望」「恐れ」「興奮」「情熱」などのメッセージが見えてくるではありませんか。もちろんそれも受け手の自由です。解説を見て辿り着くのも良し、自分なりの解釈で納得するもよし、自身のシチュエーションで見方を変えるのもよしなのです。結果として無限の可能性を作品にこめていたということが、よくわかる作品ばかりなのです。だからこそ、家に飾ったりすることでずっと楽しめたりするのでしょうね。

老齢になっても想像力は衰えず、油彩、陶器、彫刻、ステンドグラス、モノタイプ、リトグラフなど実験を続けたミロは間違いなく偉大な画家の一人だと断言できるのです。

おすすめ10選

『幻想の天空』
『アルルカンのカーニバル』
『逆立ちする人物』
『月光のなかの女と鳥』
『ロバのいる菜園』
『オランダの室内Ⅰ』
『月に吠える犬』
『スペインを救え』
『壁画(1950)』
『金の羽毛をもつトカゲ』