【『月下のサクラ』柚月裕子】を褒める

2021年6月16日

読了後の感想(3分で読めるよ)

『朽ちないサクラ』の続編で、主人公の森口泉が刑事となって活躍します。これ、とても面白かったです。いきなり森口泉の刑事登用試験からはじまるという変わった始まりを見せる今作。序盤から何やら不穏な雰囲気が。前途多難な船出を想像させます。とはいえ、物語自体は最初、単なる署内の金庫から現金が盗まれるという局部的な犯行でした。けれどもその捜査をすすめる上で、事件は想像以上に大きなものになっていきます。警察内部の腐敗した部分を、暴いていくうちに事態は思いもよらない深みにはまっていき、やがてとんでもない大きな黒幕の登場になります。また複雑に絡み合った組織と組織の意地のぶつかりあいが事件の解明を大きく遅らせることになってしまいます。そして結末に向けて一気に物語りは加速しとんでもない真相にたどり着くことになるのです。

ラスト40ページの攻防は息つくまもなく手に汗握る展開でした。

それにしても、よくこんなに風呂敷を広げられるものだから柚月裕子さんはすごいです。最近の躍進は目覚ましいものがありますね。警察小説は古くから多くの作家さんによって手がけられてきましたが、最近では柚月さんが先頭を切って走られているような気がします。

キャラクター設定もとても上手で主人公を取り巻くチームメンバーがそれぞれ個性的で面白い。これはシリーズ化を予感させ、続編にてそれぞれのキャラを立たせて行くのかと期待を持たせてくれます。かつて今野敏さんの作品に「STシリーズ」というものがありましたが、それに近い細かな人物設定がされており、それぞれにエピソードを持たせるのはそう難しくないことでしょう。

柚月さんの素晴らしいところは、内容以外にもあります。こういった緊迫感のある世界を描きつつも、難しい言葉の解説や舞台背景をさらっと説明して読み手に負荷をかけないところは、なかなかできないことだと思いますね。おかげで読み終えるとその世界に少し詳しくなれるのも嬉しいところです。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★★★

上 手 さ ★★★★★★

世 界 観 ★★★★★

オススメ度 ★★★★★★