【『か「」く「」し「」ご「」と「』住野よる】を褒める
読了後の感想(3分で読めるよ)
「とても面白いタイトルだな」と思うと同時に「少し、タイトルにしてはおさまり悪いな」という気持ちがないまぜになっていたこの作品。けれども読み終えてみると「なるほどな」でしたし、「これでないとね」という感じがしました。ネタバレはできませんので、そのあたりは読んでからのお楽しみにというところですね。
住野さんの作品はまだ2作品しか読んでなくってこれが3作品目。けれども「君の膵臓を食べたい」の衝撃はあまりに大きく、やはり期待も高まってしまうというもの。5つの連作短編形式を取るのですが、登場する5人の若者たちのそれぞれの目線で描かれる構成となっています。面白いのはこの5つの物語がそれぞれの持つ個性を反映したものとなっており、その個性ゆえの悩みであったり、付き合い方であったりというのが見事に活かされているというところではないでしょうか。青春小説としてもそのままみずみずしく面白く読める上に、このような技巧が凝らされているため、唸らされる作品レベルになっています。また一編一編積み重ねるごとに事情、真相、心情が明らかになっていくため、前の物語を振り返ってまた面白いという一粒で二度美味しい作りになっているのも好感が持てます。
こうした背景を元に、関わり合うこのグループは互いに心を許しているようで決して許しておらず、牽制し合いながら様子をうかがうという少し濁った友情のようにも見えます。仲の良さそうで実は仲がよくない。でも本当にそうでしょうか。作中でも語られるのですが、そんなものではないでしょうか。所詮、他人なのだから全部が全部正直に生きるなんてできないし、全部をさらけ出して本音で付き合うなんて絵空事、理想にすぎないのです。だからと言ってその状態は悪い人間関係なのでしょうか。だからそんなものなんですよ、きっと。みなある程度自分に隠し事を持っていて、それを言わない程度に仲良くなっていることこそが、実はちょうど良い関係であり、それくらいで仲良しと言えるのではないでしょうか。登場人物の一人が「考えすぎなんだよ」と放つ言葉は我々に突き刺さります。人間というのは年を重ね、疑り深くなる反面、理想を高く持ちすぎてしまう傾向にあるのではないでしょうか。もっとシンプルで構わないのかもしれませんね。
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