【2004年読書ランキング】で褒める

2021年9月16日

2004年読書ランキング

  1. 『晩鐘』乃南アサ
  2. 『模倣犯』宮部みゆき
  3. 『沈まぬ太陽』山崎豊子
  4. 『幻夜』東野圭吾
  5. 『家族狩り~五部作~』天童荒太
  6. 『MADE IN HEAVEN ~Kazemichi~』『MADE IN HEAVEN ~Juri~』桜井亜美
  7. 『破線のマリス』野沢尚
  8. 『蛇にピアス』金原ひとみ
  9. 『三億を護れ』新堂冬樹
  10. 『観覧車』柴田よしき
  11. 『砦なき者』野沢尚
  12. 『ぶらんこ乗り』いしいしんじ
  13. 『ST科学捜査班 ~赤の調査ファイル~』今野敏
  14. 『未来のおもいで』梶尾真治
  15. 『クール・キャンデー』若竹七海

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「晩鐘」乃南アサ

前作「風紋」において犯罪加害者と被害者の周辺の人々に焦点をあてて成功したが、今作では事件後の時間趨勢もまじえ、犯罪余波を追っている。主人公のをはじめ、主人公の家族一人一人の視点から描かれており鬱屈した思いが伝わってくる。家族の一人が語る「自分は犯罪者の血が流れている」という言葉はあまりに哀しい。

②「模倣犯」宮部みゆき

宮部みゆきにしか書けない大作。作品の安定感は抜群で余裕すら感じさせる。衝撃的な事件は近年の時代を反映しており、心情描写も完全無比。物語の長さが全く気にならないから驚き。猟奇的な事件の展開はスリリングで犯人の最後の行動にも無理がなく説得力がある。本物の作家だけが持つ力の神髄を見た。

③「沈まぬ太陽」山崎豊子

日航機墜落事故を題材に組織に立ち向かう一人の男の壮絶な闘いを描く超大作。懲罰人事に敢然と立ち向かう姿はたとえ主義主張が異なっていたとしても、共感せざるを得ない。「御巣鷹山編」のみ実名をあげたドキュメント形式になっており。事故の悲惨さに胸がしめつけられてしまう。

④「幻夜」東野圭吾

「白夜行」の続編的作品。ノワールの最高傑作であり東野圭吾さんの渾身の一作。「白夜行」では登場人物が多く複雑な設定だったが、今作はわかりやすくリアリティ溢れている。それでもなお作品に漂う雰囲気はグレーなままで陰鬱。登場人物そのものにある種の仕掛けが入っているのも素晴らしい。

⑤「家族狩り~五部作~」天童荒太

単行本版の「家族狩り」を元に“家族愛”に焦点をあてて書き直した、文庫5部作。数々の名言を散りばめながら“真の愛”を探し求めていく。究極の愛を追求する中で、凄惨なシーンを描かなければならなかったのか違和感を覚えないでもないが、読者に問題意識を植え付けている点では成功していると言える。

⑥「MADE IN HEAVEN ~Kazemichi~」「MADE IN HEAVEN ~Juri~」桜井亜美

トレンディな覆面作家として名が通ったミステリアスな作家・桜井亜美さん。この対になった作品を読めば、単に話題をかっさらっただけの作家さんでないことがわかる。観念の世界やハイセンスな感覚も素晴らしいが力量こそが素晴らしい。見事な心情交流描写と卓越した筆致で語るSF恋愛小説。

⑦「破線のマリス」野沢尚

脚本家・野沢尚さんの小説家としてのデビュー作。テレビ業界の舞台裏を見せながらメディアの持つ恐ろしさを警告している。構成は叙述トリックを用いた本格サスペンス仕立て。驚きの真相と主人公の行動が心に深く刻まれる。文章にブレがなく安心して読み進めることができる。「砦なき者」に続く作品。

⑧「蛇にピアス」金原ひとみ

当時、綿矢りささんとともに若手女流作家のダブル受賞で話題になった芥川賞作家金原ひとみさんの受賞作品。商業的に捉えられた感があるものの、作品そのものは受賞に恥じない素晴らしいクオリティ。非凡な才能が十分にうかがい知れる。村上龍さんのお株を奪うような世界観や過激な性描写がかえって心の純愛を映し出している。谷崎文学を思わせる。

⑨「闇の貴族」新堂冬樹

ダークな世界を描かせたら右に出るものはいない新堂冬樹さん。けれども今作はとにかく笑って楽しめる大爆笑のコミカル小説。宝くじで当たった三億をめぐって人間関係の醜さが浮き彫りになる。ドタバタ劇であるがスピード感があり読みやすい。言い回しなども痛快で味のある登場人物のオンパレード。

⑩「観覧車」柴田よしき

下澤唯という女性探偵が活躍する連作短編小説。とはいえ、物語はそれぞれ未完で終わり、全体を読み切らないと小説として仕上がらないという面白い構成をしている。事件を解決していく中で主人公が抱える大きな事件の結末がどうなるのか目が離せない。彼女の「想い」は2007年ランキングにある「回転木馬」に繋がっていく。

⑪「砦なき者」野沢尚

「破線のマリス」の続編でありながら、その手法、舞台、展開などは全て異なる。強いて言うなら「メディアによるマインドコントロール」のコンセプトだけは同じだったか。前作の登場人物たちがそれぞれの時間経過とともに立場を変えあいまみえる。手に汗握る展開は脚本家ならではの実力。

⑫「ぶらんこのり」いしいしんじ

いしいしんじさんの織り成す温かくて安らげる童話。語り口調が柔らかく懐かしく、ノスタルジックな世界が作品全体を包んでいる。細かい章にわかれているが、その一つ一つに味があり意味があり、その積み重なりで作品に重みが増し加わっている。「プラネタリウムのふたご」にも似た幻想的な作品だった。

⑬「ST科学調査班 ~赤の調査ファイル~」今野敏

安定感抜群のSTシリーズ。その個人編の一つで一匹狼・赤城の活躍を描く(すなわち赤の調査ファイルとなる)。今野敏さんの筆さばきは名人芸の域で、一見陳腐なヒーロー戦隊ものの設定ながら、決してベタな展開を許さず、個々のうまみを引き出すことに成功している。もっともっと彼らの活躍を堪能したかった。

⑭「未来のおもいで」梶尾真治

展開は誰もが類推できるような簡単なものであるが、次第にその結末に確実に行きつくことを望んでしまう。結果、その結末に辿り着くことに安堵する。甘い設定でありタイムラグの設定も大雑把なように感じるが、それが読みやすさや癒しにつながっている。当時「黄泉がえり」で話題をさらった梶尾さんが挑んだライトファンタジーだった。

⑮「クール・キャンデー」若竹七海

切れ味鋭い文体が持ち味の若竹七海さんならではのミステリ。コミカルな口調であり、テンポよく読みすすられるのだが、結末を知ると明るい文体が逆に背筋を冷たくさせる。そういう意味でもタイトルは効いているような気がする。あまりの急展開に思わず読み返してしまった快作で、その名の通りクール。