【2009年読書ランキング】で褒める
2009年読書ランキング
- 『獣の奏者』上橋菜穂子
- 『新世界より』貴志祐介
- 『とんび』重松清
- 『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎
- 『隠蔽捜査』今野敏
- 『フリーター、家を買う』有川浩
- 『乱反射』貫井徳郎
- 『こけたら立ちなはれ』後藤清一
- 『八日目の蝉』角田光代
- 『子どもたちは夜と遊ぶ』辻村深月
- 『1Q84』村上春樹
- 『きみの友だち』重松清
- 『ラットマン』道尾秀介
- 『サクリファイス』近藤史恵
- 『悼む人』天童荒太
それぞれの一言コメント
※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。
①「獣の奏者」上橋菜穂子
壮大かつ心温まるファンタジー作品。世界観もこのうえなく素晴らしい。主人公エリンから息子ジェシへとつながる青春大河小説でもある。人間と獣は本当にわかりあえるのか、封印された本当の理由は何なのか。全ての謎が解き明かされるクライマックスの語りに感動の涙が止まらない。
②「新世界より」貴志祐介
ホラー作家としてだけでなくファンタジー作家としても超一流であることを世に知らしめた超大作。「獣の奏者」がライトタッチであるのに対し、こちらは重厚で深みのあるハードな仕上がりを見せている。平凡な主人公が必死になって世界を救おうとする。複雑怪奇な策略もあり、敵味方入り乱れて息もつかせぬ展開が待っている。
③「とんび」重松清
全国の父親に、いや息子・娘たちにおすすめしたい重松清さんのハートウォーミングな傑作。無骨な父親とその息子の心の交流を愛情たっぷりに映し出している。紆余曲折を経て親となった息子は、根底の部分で父親としっかりと繋がっていたのだ。私も父親とのこの作品を通してわかり合えた。
④「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎
首相暗殺の容疑者となった主人公。しかしそれは得体の知れない大きな力による陰謀(?)だったのだ。孤立無援で立ち向かう主人公を救ったのは意外な人物たちだった。会話の一つ一つ、言葉の言い回しがとても粋で心に残る。スピーディな展開も伊坂ワールド全開でとても楽しめた。
⑤「隠蔽捜査」今野敏
警察小説の多くがキャリア組を否定し、警察社会の構造的欠陥を批判しているが、この作品は違った。あえて主人公をキャリアにして視点を据え、キャリアの活躍を気持ちよく描いている。敏腕で胸がすく活躍を見せてくれる一方で、キャリアならではの偏屈性も描かれており、大真面目なだけに余計に滑稽でコミカルだった。
⑥「フリーター、家を買う」有川浩
日経ネットで連載されていた就職ストーリー。新入社員でやりたいことができずにすぐ辞めてしまう・・・その甘さが、悲劇(喜劇?)の始まりだった。母は心を病み、父は家族を顧みない。勝ち気な姉に尻をたたかれながら主人公はたくましく成長していく。
⑦「乱反射」貫井徳郎
良識派の主婦、怠慢な医師、深夜外来の常習者、無気力な公務員、尊大な定年退職者・・・複雑に絡み合うエゴイズムのなれの果て。そして悲劇は起こってしまった。幼い命が奪われた原因をつきとめていくとわかる小さな負の連鎖。「これくらいならいいだろう」という積み重ねはとても「いいだろう」とは言えないものになった。
⑧「こけたら立ちなはれ」後藤清一
経営の神様・松下幸之助のもとで松下電器(現パナソニック)を日本有数の大企業に押し上げ、その後三洋電機の創業から躍進までを支えた経験を持つ筆者。かつて日本を代表した家電メーカーで残した実績の根本にはこのような考え方があった。その経験と考え方から放たれる言葉はどれも重い。
⑨「八日目の蝉」角田光代
やってしまったことは、犯罪ではあるけれど、一人の人生を狂わせた事は許されないことではあるけれど、築いた二人の心の交流まで否定する事はできない。偽りとはいえ、結んだ親子の情は本物ではないと誰が証明できるのだろうか。理屈では説明できない人間の心の動きがこの作品には詰まっている。
⑩「子どもたちは夜と遊ぶ」辻村深月
正統派ミステリでありながら、辻村ワールドの世界観も着々と構築していく天才作家辻村深月さん。序盤は謎めいた部分が多く、読みづらさもあったが、後半物語は一気に加速していく。と同時に無機質だった文体がみるみるうちに生気を取り戻し手に汗握る展開へと変わっていく。登場人物たちに心情移入してしまう。
⑪「1Q84」村上春樹
シュールな世界観と美しい言葉が紡ぎ出す幻想的とさえ思える村上作品。今作品でも難解で物語を追う事に必死になってしまいつつも、その素晴らしい言葉のチョイスに酔わされてしまう。過去作品と比べても抜きん出た精緻で隙の無い構成と芸術的な心情描写は他の追随を許さない。
⑫「きみの友だち」重松清
重松さんの人間描写には本当に頭が下がる。主人公も友人たちも、私たちの日常の中にきっといる。人間には一人一人ドラマがあり、特別なものでなくても輝きを放っているもの。それはかけがえのない個性だからということを改めて教えてくれる。ほろりと涙を流す事だろう。
⑬「ラットマン」道尾秀介
道尾作品には佳作が多い。大作とは言えなくてもそれぞれピリッと効いた作品に仕上がっている。バンドに起きた事件の真相が主人公の過去をたぐり寄せる。周到に練られたトリックで犯人が交錯する。奇想天外な始まりが印象的だが、全体的にはコンパクトにまとまっている。
⑭「サクリファイス」近藤史恵
スポーツものが得意な近藤史恵さんの青春小説。丁寧に伏線をはりめぐらせ荒削りながらも工夫が見られる構成に好感が持てる。自転車競技のスピード感もあいまって読みやすく気持ちがいい。サスペンスとしての仕立ても完成度が高くとても読み応えがあった。
⑮「悼む人」天童荒太
物語そのものや展開はどこかしら陳腐で優れた作品のように思えないかもしれない。関係のない死者のために全国行脚するという設定も少し無理もあるかもしれない。けれども「誰でもいいから殺したい」という理不尽な殺人に対し「誰でもいいから悼みたい」の応答は深く心に刺さる。読み進めれば重さはどんどん増してきた。
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