【クリムト】を褒める

2022年7月15日

《性的魅力と神秘的魅力の融合を見せたエロティシズムアートの先駆け》

クリムトの『接吻』は絵画に詳しくない方にも人気の名画で、多くのシーンでその絵が使われていたりしますね。作者よりも作品のほうが有名な例かと思います。もちろんクリムト自身についても多くの方にその名前は知られており、かなり市民権を得ている印象があります。今回はこのクリムトについて褒めていきたいと思います。

オーストリアに生まれたグスタフ・クリムトは幼いときから絵の才能を買われ、なんとウィーンの公共事業を任されるようになったのが17歳というから驚きです。東京都の文化建築の装飾などに17歳の少年が選ばれるなんてこと、なかなか考えられないですよね。もうそれだけでも褒めポイントですが、そんな才能を見いだし、事業を任せる決断をしたウィーンの街にも褒めたくなってしまいます。

けれどもそんな才能のある人間というのは、なかなか型にはまらないのは仕方がないことなのでしょうか。次第に視野が広がっていくクリムトにとって公共事業は制約の多い退屈なものになってしまったようで、やがてその不満は独立への精神を育んでいくことになるのです。35歳になったクリムトはついに分離派を結成し、公共事業における閉鎖主義を批判する立場に立ったのでした。そんな袂を分かったクリムトに残っていた事業が「ウィーン大学の講堂の天井画」だったのですが、ここでクリムトはある事件に見舞われます。それが『哲学』『医学』『法学』と題されたエロティシズムを感じさせる(私にはそう見えませんでしたが)作品をこの講堂の装飾画としておさめたことでした。この作品が、いわゆる教育現場にそぐわない絵だと非難が殺到し、結果としてその後の事業継続を撤退させられたのでした。

他の多くの画家同様、順風満帆に見えたクリムトにも大きな挫折があったということですね。信念を貫くというのも大変な事で、その決断をできる画家さんの胆力にも褒め言葉を送りたいものです。ただ実際にはクリムトにとってはこの事件はさほど影響を与えたわけではなかったようです。というのも、彼の描くエロティシズムは資本家夫人たちに好まれるところとなり、多くのパトロンを獲得できたのです。気品を大切にしている紳士淑女から、クリムトの画風が好まれるというのも不思議な感じがしますが、実はこれには時代背景がとても大きく関わっています。この当時、精神分析や性美学がとても論じられている時代であり、クリムトの絵はそんな時代に同調するがごとく世に登場していたのでした。もちろん、そのような論議にクリムトもある程度関心を寄せていたからこそ、彼の作品が洗練されていったのでしょうね。

さて、彼の絵の特徴ですが実は『接吻』一作だけを見るよりも多くの作品を知った方が、より楽しめるのではないかと私は考えています。なぜなら、クリムトの作品は両極端からうまれるアクセントが一つのキーになっているからです。彼はマドンナを描くとともにファムファタール(悪女)をも描きます。それを一つの絵に映し出すこともあります。例えば『ユディトⅠ』の絵ではユダヤの英雄的女性である「ユディト」を描いていますが、クリムトの描くユディトは英雄というよりはまるで悪役なのです。そのことゆえに不気味な強さを強調させるのです。また彼の絵画の特徴として「宝石」による装飾がとてもよく出てきます。『接吻』でも衣装に見られますね。これは装飾美でエロティシズムを覆い隠しているのですが、結果としてより隠されたエロスが強調されて人々の心に印象づける役割を担っています。さらには『希望Ⅰ』『音楽Ⅰ』のような“動”を感じさせる作品と裏腹に『ベートーヴェン・フリーズ』のような点を捉えた“静”を感じさせる作品もあるのです。性的魅力と神秘的魅力、退廃と希望、これらの両側面を見て、余計にそれぞれが強調されていることを実感できるのではないでしょうか。

ちなみに私は有名な『接吻』も好きなのですが、それ以上に『充足』が大好きです。私にはこの作品のほうが幸せそうで、しっかりと抱擁されている安心感が大きいのです。

おすすめ10選

『充足』

『エミリー・フレーゲの肖像』

 

『音楽Ⅰ』

『接吻』

『マルガレーテ・ストンボロー=ヴィトゲンシュタインの肖像』

『希望Ⅰ』

『ダナエ』

『金魚』

『処女(おとめ)』

『海蛇Ⅰ』