【『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)







本屋大賞の翻訳小説部門で第一位となった話題作で、SNSでもよく見かけていたことから「読んでみたいなあ」とは思っていたのですが、ビジネス書以外で海外モノをすっかり読まなくなっていた私には少しハードルが高いかなとも思っていました。けれども読み始めてみたら、そんな心配は全く不要であったとわかります。どんな作品でもいっつもこのような要らぬ心配をしてしまうのは何故でしょうね。

「湿地の少女」と呼ばれた貧しい主人公がとある殺人事件の容疑者として追い詰められていく話です。最近、オリンピックで差別発言が大きく取り上げられ、演出やスタッフ、チームから外されるという話が出ています。この話は、少し前の時代はそのような差別が実際にあったということを知らしめる内容となっています。正直読んでいてあまり気持ちのいいものではありませんでした。

そこにある差別はもちろんのこと、社会から権利や自由を奪われていたり、杜撰な捜査がなされたり、人々の好奇の目や偏見にさらされたりと、人間の愚かな側面をまざまざと見せつけられる中で、どうしても人間としての尊厳について考えずにはいられませんでした。

一方でそんな少女にも少ないながら味方がいます。そして心のよりどころがあります。実は恋愛要素も出てきます。そのシーンが出てくる度、読み進める力と勇気を与えられた気がします。帯に「この少女を生きる」というような文言があったのですが、まさに少女にシンクロすることで、人間としての喜怒哀楽がはっきりしてきたような気がしました。この少女にもただただ「かわいそう」の憐憫だけでなく、彼女の考え方の幼さであったり、感情の矛先の違いであったりが目につきます。それらが物語(というより時間軸)が進むにつれて、彼女の成長とともに改善されていくのがとても興味深かったですね。

後半は裁判の様子が丁寧に描かれるのですが、決して難しい描き方をしておらず読みやすかったしわかりやすかったです。最終的な結末については賛否両論それぞれあると思いますが、なかなかひねりの効いた落としどころではなかったかと思います。こればかりは実際に読んでいただいて感じ取ってもらうしかありませんね。

ところで、私が海外モノを苦手としている理由の一つに翻訳というフィルターがかかることがあります。これは良い方にも悪い方にも傾くのですが(例えば私のオススメのトルストイ『復活』などではその翻訳こそが心に刺さった)、本当の著者の伝えたいモノがそこにあるのかどうか不安だったりするのです。今回はどちらかというと良い方に傾いた気がします。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★