【デューラー】を褒める

<細やかな観察と堅く入念な線によって全てを描く優れた芸術家>

アルブレヒト・デューラーの1500年の自画像を見たことがある方も多くいらっしゃると思います。ここに描かれたデューラーはとても知的でセンス抜群のイケメンさんですね。事実、デューラーは自分のことをイケメンだと思っていたようですし、知的で教養をもったインテリとして自信を持っていたようです。緻密な版画の作品も有名で、これを見ると完全無欠の男が浮かび上がってきちゃいます。今の時代だとかえって鼻について嫌われてしまうのかな。いえいえ、実はデューラーの生きていた時代だって色々とあったようですよ。なかなか一筋縄ではいかない生涯を送ったデューラー。どんなところを褒めていこうかな。

もともと金細工師だった父親の工房で修業を受け、親の仕事を継ぐことを期待されていたデューラー。彼の版画の技術はここに礎があるのかもしれません。けれども絵のほうに興味を持ったデューラーは父親を説得し、画家を目指すことになります。彼はニュルンベルクの画家ヴォルゲムートのもとで3年修業しますが、その後ドイツ伝統の“遍歴の旅”に出ることになり、様々な絵画に学ぶことになります。ちなみにこのタイミングで親のまとめた縁談により悪妻として有名なアグネスフライと結婚しています。

やがてヴェネツィアにて彼は大きく成長します。イタリアの巨匠から学べるものを学び、遠近法や裸体表現を研究していきます。ルネサンス絵画の原理をほぼ理解した彼はいよいよ画家として羽ばたこうかとしていました。そしてその生活を安定すべく、木版画や銅版画で生計を支えようとしたのですが・・・。なんとこの版画でデューラーは名を馳せてしまうのでした。「黒い線だけで全てを描き尽くす」と絶賛されたデューラーでしたが、彼は絵画においての成功を願っていたのです。けれども、名を高めるのは版画作品ばかり。彼は必死に色彩の扱いに優れていることをアピールするのですが、どうにもこうにも通用しません。ここでデューラー、あきらめちゃいますw。「えっ、うそ、あきらめちゃうの」と思ったあなた。そりゃあね、版画作品、並外れた素晴らしい作品ばかりで十分成功しちゃってるんですよ。あきらめたというか、なんというか。たまにいますよね、本職より副業のほうが成功しちゃっている人。たとえば本当は芸人さんなんだけど、家電とかキャンプに詳しいとか、本当は歌手なんだけどものまねがとても上手とか。プロ野球なんかでも、本当はキャッチャーなんだけど、よく打つから外野守りながらクリンナップを任されているとかね。絵画をあきらめさせるほどの版画の腕前を持っていたデューラー、凄いじゃないですか。

しかし晩年、デューラーは画家として成功します。そう、デューラーはあきらめてなんかいなかったのです。この不屈の精神、他に成功している分野があるとなかなか貫き通すのは難しいですよ。それをやってのけたデューラーを褒めないわけにはいきません。ヴェネツィアで身につけた色彩感覚や巨匠に学んだ完璧な比率など、最後の大作『4人の使徒』でそれは結実します。それぞれの表情は色彩によってかき分けられ、心の中まで映し出しているかのようです。ちなみに美しい八頭身の人物画は、先日紹介したアングルと比較すると面白いかもしれません。アングルは魅力を最大限に引き出すために、奇妙な比率をよしとしましたが、デューラーは完璧なまでの黄金比率により、理想の姿を描き出しました。また「黒い線だけで」と皮肉にも高い評価を受けた版画に対して、『学者たちのあいだのイエス』を見てください。一人一人の表情が見事に色彩によって描き分けられています。けれども彼の鋭敏な資格は若いころも晩年も変わらず鋭く、版画であれ絵画であれ優れた芸術的才能を見せつけたのは、彼の長い修行の成果だったのかもしれませんね。

おすすめ10選

『4人の使徒』

『騎士と死と悪魔』版画

『自画像(1500年)』

『メランコリアⅠ』版画

『野兎』

『自画像(1498年)』

『原罪』

『学者たちのあいだのイエス』

『三位一体の礼拝』

『ロザリオの祝祭』