【2018年読書ランキング】で褒める

2021年10月11日

2018年読書ランキング

  1. 『下町ロケット ~ゴースト編+ヤタガラス編』池井戸潤
  2. 『火定』澤田瞳子
  3. 『東京輪舞』月村了衛
  4. 『たゆたえども沈まず』原田マハ
  5. 『彼方の友へ』伊吹有喜
  6. 『フーガはユーガ』伊坂幸太郎
  7. 『子ども・パートナーの心をひらく聴く力』原由加
  8. 『革命のファンファーレ』西野亮廣
  9. 『沈黙のパレード』東野圭吾
  10. 『罪人が祈るとき』小林由香
  11. 『どんまい』重松清
  12. 『青空と逃げる』辻村深月
  13. 『ある男』平野啓一郎
  14. 『ベルリンは晴れているか』深緑野分
  15. 『守教』帚木蓬生

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「下町ロケット ~ゴースト編+ヤタガラス編~」池井戸潤

ロケット、医療機器についで佃製作所が挑むのはトラクター。トランスミッションという新たな分野に乗り込み日本の農業に革命を起こす男たちのロマンを描く。苦悩や葛藤、裏切りを味わいながらも信頼と絆を培っていく。佃プライドに今回も心震わされた。日本の全メーカーに敬意を表したい。

②「火定」澤田瞳子

コロナの陰も無かったこの年に、このような作品が登場していたことが驚きだ。天平の時代に多くの命を奪った天然痘。幼い子どもの命さえ容赦なく奪うこの病に対して打ち勝つ手立てはあるのか。闘い続けた壮大な人間絵巻。鍵を握る人物たちの数奇な運命と熱き使命感を圧倒的なスケールで表現し、古のパンデミックを描ききった。

③「東京輪舞」月村了衛

この年、一番胸に突き刺さった作品でクオリティはNo1。公安警察である主人公と宿敵の女性犯罪者とのたたかい、パートナーや上司との心の交流や人間関係の妙味。これらの描写は圧倒的で他の追随を許さないものだった。他にも魅力あふれる登場人物たちが目白押しで、昭和平成の激動を一人の人生の暗闇とともに炙り出した。

④「たゆたえども沈まず」原田マハ

悲運の画家・ゴッホの生涯を描いた作品。画商である彼の弟のテオは兄の一番の理解者であった。一方、日本においても浮世絵を世に広め印象派絵画の躍進に力を注いだ人物たちがいた。ゴッホや後期印象派の画家たちが支えられた裏事情を魅力的な人間ドラマとして余すところなく語り尽くした美術小説。

⑤「彼方の友へ」伊吹有喜

昭和の時代を美しく映し出し、時代の移ろいとともに主人公の成長を描く軽快な青春小説だった。平成の老人施設でまどろむ主人公に、赤いリボンで結ばれた小箱から浮き彫りになるかつての仲間たちの心意気。寂しくも暖かいものが心に染み渡る良質な一作。

⑥「フーガはユーガ」伊坂幸太郎

伊坂ワールドの魅力がいかんなく発揮された痛快作品。設定が奇抜で語り手のアングルが絶妙なあたり、目を見張るものがあった。優我(ユーガ)が語る双子の弟風我(フーガ)のこと。彼ら兄弟だけの特別な現象を中心に驚く展開から思わぬ結末に向かっていく。二人の絆は想像を超えて強かった。

⑦「子どもパートナーの心をひらく聴く力」原由加

コミュニケーションに関する本の中でもかなり斬新的で、深く感銘と共感を覚えた。相手の心に寄り添う「聴き方」で親子関係、夫婦関係が変わることが実感できることだろう。“肯定する”“共感する”“ジャッジしない”“意見を言わない”・・・などなど多くの意識すべきポイントをわかりやすくまとめてくれている。

⑧「革命のファンファーレ」西野亮廣

読む前から芸人である西野氏の考え方の大きさは耳にしていたが、噂通り革命的な見地に驚きを隠せなかった。過去にも「革命的」という触れ込みは多数見てきたが、この本はそのタイトルに恥じない十分な内容を兼ね備えていた。すべてを肯定するわけではないが、自分の考え方に影響を与えられたのは否定のしようがない。

⑨「沈黙のパレード」東野圭吾

いつものように安定したクオリティの東野作品。読みやすくしっかり考えられたストーリーと練られた落としどころはやはり一流作家の成せる技。ガリレオシリーズにしてはトリックにあまり主眼が置かれず、どちらかというと人間関係や心情の移り変わりに焦点があてられていた印象。

⑩「罪人が祈るとき」小林由香

いじめに対する報復としての嘱託殺人。もちろん罪であることに間違いはないが、それにより助けられる者がいるのは事実。そしてそこに感動が生まれるものまた事実。極端な手法で本質を問いかけてくるのはデビュー作「ジャッジメント」と同様であり、良いか悪いかの答えはここでは出すことはできない。

⑪「どんまい」重松清

特別なヒーローが出てくるわけでもなく、プロの壮絶な世界を描くわけでもなく、ほのぼのとした草野球の中に彩られた普通の人たちの普通の物語。しかしその中にこそリアルなドラマが横たわっているものだ。チームを通してそれぞれの人生が大きく影響を受けることを見事に描いた快作。

⑫「青空と逃げる」辻村深月

劇団員である父が女優と事故を起こしてしまった結果、不倫騒動が巻き起こり事務所から逃げることとなった母と息子。多感な少年の心や必死な母親の感情、妻としてのやりきれない感情など心情描写に長けた作品。家族の成長と再生をテーマに、母となった辻村深月氏の幅の広さに脱帽。逃げることだって必要と教えてくれる。

⑬「ある男」平野啓一郎

夫であったはずの男は、まったく別の人物であった・・・という衝撃的なつかみで読み手の興味をかきたてる。しかしその謎を解き明かすことがこの作品の本質ではない。人は深い傷を負っても、愛にたどり着けるものだろうか。人間の存在やアイデンティティーを世に問う挑戦作。

⑭「ベルリンは晴れているか」深緑野分

ナチス・ドイツが敗れ、米ソ英仏の四カ国の統治下に置かれたベルリンドイツ人の少女と陽気な泥棒の冒険談として物語は語れていく。世界戦争後の当時の悲惨な様子や、高まる東西冷戦の緊張感がよく伝わってくる。それに併せて深まる謎にますます興味が惹かれページを捲る手が止まらない。

⑮「守教」帚木蓬生

隠れキリシタンたちの魂の叫びを描く歴史巨編。命を賭けて信仰を守る村人たちの姿を、過酷な状況や心の迷いとともに表現している。どのように信仰が守られてきたのかイメージがわいた。一代記とせず七代にわたって描くことで重厚で感慨深い仕上がりとする大河的な小説が完成した。