【『兎の眼』灰谷健次郎】を薦める

読書のススメ(6分で読めるよ)







灰谷健次郎さんという作家さんをご存じでしょうか。最近はわかりませんが、以前はよく小学校や中学校の読書感想の対象作品に本日紹介する『兎の眼』や『太陽の子』が取り上げられていました。しかしながら取り上げられるテーマがとても重く問題作でもあったため敬遠される方もひょっとすると多かったかもしれません。また今となっては時代背景が古すぎて違和感を覚える方もいるのかもしれないなという懸念もありました。けれどもアマゾンでレビューを調べてみても依然高評価を連発させており、決して時代錯誤な作品ではないことを確認することもできました。

そもそもこの『兎の眼』は灰谷さんのデビュー作でありながら100万部を越えるミリオンセラーとなった作品で、『太陽の子』もまた50万部を越えるセールスを記録しています。けれども部落差別やいじめ問題、環境問題をかなりえぐるように描写したこともあり、常に非難の的となってきたことも事実です。元々、教師をしていた灰谷さんは、教師時代からこういった批判にさらされ作家になるのがずいぶん遅れたということです。

さて中身は新任教師・小谷芙美先生が受け持ったクラスの心を開かない生徒・臼井鉄三との交流(たたかいというべきか)から始まります。次々と問題行動と思われる行為を繰り返す鉄三に苦戦する小谷先生。ついには友達の文治を怪我させてしまうのですが、その背景にはその友達から受けていたいじめがあることを突き止めます。文治に対して鉄三に謝らせようとする先生に対して、今度は文治の親が抗議をしてくるのでした。

作品の中には今では考えられないようないじめや偏見の描写が出てきます。あるいは今でも根強く残っているのでしょうか。それはわかりませんが、それに対する親の抗議は今の時代でもよく聞く話ですね。

またこの地区には生活環境を劣悪なものにする塵芥処理所があり、その移転問題も描かれています。学校に通う子供たちにはこの塵芥処理所で働く家庭の子供たちも多くいて、どうしても処理所に反対する家庭との軋轢が出てきてしまいます。その戦いに先生たちがどのように関与したのか、これも見所ではありますが、どちらが正しいとは私は言えないと思っています。

結局のところ、当事者側からするとどんな立場でも正義を持っており、その正義と正義をたたかわせても結論は出ないと思います。けれども大切なのはその正義のかざし方、守り方、また反対する者に対する接し方、戦い方、ここに人としての尊厳が尊ばれなければ、どちらの意見であれ、どちらの正義であれ、人を傷つけてしまうということです。こうした問題をノスタルジックな描写とともに訴えかけてくる名著であると言えるこの作品。

こうしてブログ記事にすると少し構えてしまうかもしれませんが、そこは児童文学の範疇で描かれていることなので、それこそ小学校の授業にあった道徳授業などを思い出しながら、自分ならどうだろうかと思いを交錯させるだけで十分に読む価値があると思います。

レビュー

<読みやすさ>

基本的には児童文学でもあるので読みやすい事は間違いありません。読書苦手な方でもこれならすんなりと読めると思います。ただし中身は重いですから読み進められないという方もいるでしょうか。

<面 白 さ>

テーマがとても興味深いです。今の時代との比較をするのも発見が多くあると思います。ただし結論づけるのは難しく、煮え切らないという思いも抱くかもしれませんね。

<上 手 さ>

児童文学においては灰谷健次郎さんはよく知られた存在でもあります。長く読書感想の対象作品となったこともありとても上手いです。今作のようなデリケートな部分を扱っているからこそその上手さが際立ちます。

<世 界 観>

テーマにおける世界観はとても深く簡単ではありません。また今の時代でも同様の問題が起こっている事を考えると時代を超えた問題提起をしておりその世界観は非常に大きいと言わざるを得ません。

<オススメ度>

どんな考え方を持っている人でも読んでみることに関してオススメします。その上で結論は強制されるものでもなく、どちらが正義かを決めるのではなく、深く考えるきっかけとすることにおいて薦められる作品です。