【『沈黙』遠藤周作】を薦める

2021年9月16日

読書のススメ(5分で読めるよ)







昭和の偉大な作家の一人・遠藤周作さんの代表作です。歴史の授業でも習ったクリスチャンに対する「踏み絵」。信仰を保つか棄て去るかの究極の選択を迫られる物語です。とはいえ、話はそう単純ではありません。なんせ、“究極の選択”なわけですから。この作品についてはキリスト教会においても物議を醸し、敬虔なカトリックからは忌み嫌われたとまで言われる作品です。ちなみに遠藤周作氏はカトリックのクリスチャンであり、決して無神論者でもアンチキリスト教でもないことを知っておいてください。

冒頭で「踏み絵」の事を紹介してしまったので、宗教を認めるか認めないかの部分に焦点があてられそうですが、私がオススメしたいポイントは実はそこではありません。タイトルを見てください。『沈黙』とあります。何が沈黙なのでしょう。このタイトルの意味がわかると私がオススメしたいことも理解してもらえるのではないかと思っています。

物語はロドリゴというポルトガル人の司祭を中心に語られます。司祭とはプロテスタントにおける牧師の立場ですが、おそらくそれ以上の権威を持つような存在らしいですね。先生役(校長先生くらい?間違ってたらごめんなさい)のような方が、信仰を貫けるのか、それとも棄ててしまうのかという選択を迫られるのです。歴史上、日本の農民でも踏み絵を踏めず命を奪われるという事実がある以上、司祭の立場においては当然、命を失っても信仰を守るように推測してしまいそうですね。また聖書の物語の中でも多くの預言者や弟子たちが殉教していることを私たちは知っています。けれどもロドリゴが天秤にかけられたのは自分の命ではありませんでした。彼が棄教しなければ、すでに棄教している信者たちまで拷問が続くというものだったのです。この状況の中でロドリゴは必死に神に祈ります。けれどもその信じているはずの神はロドリゴの祈りに一切答えてくれないのです。沈黙――、ここにロドリゴの悩み苦しみが極限に達していくのです。

ネタバレにならないようここまでにしておきますが、この状況の中でロドリゴが下した決断がどうだったのか、そして神はなぜ沈黙を続けたのか、そもそも神はどのような存在なのかということを信仰者であれ無神論者であれ考えさせられることでしょう。そして私は遠藤さんが出したこの結末に、信仰者も無神論者も納得できる神観というものを見たような気がします。そういう意味では私は神の存在を信じているとも言えますし、別の意味では神の存在を信じていないとも言えるのです。もちろん私のこの見解は、ある信仰者からは「そんなものは信仰ではない」「それは神を信じているとは言わない」と言われるかもしれませんが、そういった宗教学で論争するつもりはございません。「そうかもしれませんね」としか言えません。けれども遠藤周作さんは作家であり、私は読者です。一読者としては、一冊の小説を読んで、そのような読書感想を持ったということなのです。そして大学のときにこの本を読んで以来、それが私の支えになっているとも言えます。「そんなものは偽りだ」とおっしゃられるかもしれませんね。けれども小説はどれもすべて作り話にすぎません。現実とは違う虚構の世界こそが物語です。「桃太郎」の世界も「かぐや姫」の世界も全部そうです。けれどもその物語に人は心打たれ、感動し、生きがいを見つけるものだと思うのです。一読者の一オススメ作品として『沈黙』を読んでいただきたいと思います。

レビュー

<読みやすさ>

全体的に重く暗い雰囲気が漂っており、描写自体が苦手な方がいるかもしれません。また宗教をテーマにしているため、それが読みづらさにつながる方もいるかもしれません。けれども内容自体は読みやすく、宗教や哲学を扱っているというような難解さはありません。入り込みさえすれば一気読みできると思います。

<面 白 さ>

このテーマを扱うという面白さがあります。ある意味究極の選択を見るわけですから、どうなるだろうかとハラハラドキドキできるでしょう。一方で遠藤氏自身がカトリック信者でありながらも、敬虔なクリスチャンの方からは大きな批判を浴びたことからも、万民受けする面白さとは言えないのかもしれません。

<上 手 さ>

これについては唸らされます。批判を浴びたとはいえ、賞賛もたくさん受けている作品です。この難しくデリケートなテーマに対して臆せずしっかり描き、読み手に安易な選択をさせてくれない上手さがあります。誰しも深く考えさせられ簡単に結論を出させないのは、作品の持つ完璧な仕上がり具合を証明しているようです。

<世 界 観>

舞台はそれほどスケールが大きいものではありません。けれども本当に大きなものともいえる精神世界を描いているわけですから、やはり壮大な物語の部類に入るでしょう。かと言って普遍の心理について記しているというほどのものでもありません。一信者の生き様という点において展開しているので、大きくもあり大きくなくもありという感じでしょうか。

<オススメ度>

宗教や思想に対して抵抗がある方でもすんなり読めると思います。むしろ無神論者のほうが「なるほど」と思えたような気がします。逆に、ご自身で篤実な信仰をお持ちの方(特にクリスチャンの方)は賛否激しく分かれると思うので、オススメしづらくはあります。けれども賛成、反対のどちらの意見になったとしても、深く考えさせてくれることが小説の醍醐味だと理解してくれるならオススメです。