【2017年読書ランキング】で褒める
2017年読書ランキング
- 『蜜蜂と遠雷』恩田陸
- 『幻庵』百田尚樹
- 『かがみの孤城』辻村深月
- 『コンビニ人間』村田沙耶香
- 『銀河鉄道の父』門井慶喜
- 『桜風堂ものがたり』村山早紀
- 『イノセント・デイズ』早見和真
- 『慈雨』柚月裕子
- 『AX』伊坂幸太郎
- 『盤上の向日葵』柚月裕子
- 『この世の春』宮部みゆき
- 『コーヒーが冷めないうちに』川口俊和
- 『騎士団長殺し』村上春樹
- 『罪の声』塩田武士
- 『琥珀の夢』伊集院静
それぞれの一言コメント
※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。
①「蜜蜂と遠雷」恩田陸
ピアノコンクールにおいてほとばしる才能のぶつかりあい、パワーとエネルギーの漲る超大作。個性あふれる登場人物は誰もが魅力的で美しい。コンクールの熱気、音楽の素晴らしさや厳しさ、そして天才の領域、それら全てを圧倒的スケールで描ききった。友情や音楽への想いが複雑に交錯する中、感動のラストを滂沱の涙で迎えよ。
②「幻庵」百田尚樹
伝説の棋士たちの成長と闘いの記録であり系譜となる作品。しかし英雄は何故こうにまで同じ時代に生まれてくるものなのか。生涯をかけて以後の道を究め、命をかけて盤上に向かう。その姿に唸らされない読者ないないだろう。囲碁を知らない者でも、その世界観は十分に伝わるはず。
③「かがみの孤城」辻村深月
不登校の子供たちにおきる不思議な現象。その謎の真相に迫るとき、感動的な背景が浮き彫りになる。トリックについては簡単に見破ることができがが、その理由については深くて予期せぬものだった。これまでの辻村ワールドを踏襲しつつ新境地を開拓した新たな代表作が誕生した。
④「コンビニ人間」村田沙耶香
常識を大きく疑う村田作品。一見、現代社会における話に思えるが、よくよく考えるとコンビニ人間のようなタイプは昔から存在していたとも言える。モラルや理想、教育とは別に、生きていれば誰しも辿り着く世界がある。それこそが人生であり、それこそが現実。そして人は順応していくことで自分を構築していくものかもしれない。
⑤「銀河鉄道の父」門井慶喜
これまで宮沢賢治に対して懐が深く常に冷静沈着なイメージを持っていたが、この作品の賢治像はまるで違う。平凡で我が儘な偏屈者。そんな斬新な姿を描き出した。苦悩する父をよそにマイペースを崩さない賢治。そんな父と子の交流を面白く読むことができたのは、この斬新な視点のおかげだろうか。
⑥「桜風堂ものがたり」村山早紀
ある書店員の挫折と再生の物語。展開は必ずしもスピーディではないが、逆に優しく温かみの与える文体となっている。登場人物のピュアな心情にフォーカスし、人間関係が織りなす様々な事象について、ポジティブにとらえさせることに成功。希望あふれるハートウォーミングな作品だった。
⑦「イノセント・デイズ」早見和真
元恋人の家に放火し、妻と子どもを殺めた女性。その事件の背景を追う展開から、最終的に救われない思いが残るラストへ。通常こんな結末は決して考えられない。しかしそんな作品としての常識をすべて覆すことで心に楔を打ち込まれるのかもしれない。緻密な心情描写が作品に大きな力を与えている。
⑧「慈雨」柚月裕子
ミステリの中に熱いヒューマンドラマを組み込んだ柚月刑事物の真骨頂を垣間見る作品。年老いた刑事の悔恨と矜持が若手刑事の誠実で真摯な生き方と反発しあってしまう。人間味にあふれるそれぞれの人生が照らされ光り輝く。クロージングも見事に決まり、とても心地よい読後が待っている。
⑨「AX」伊坂幸太郎
殺し屋シリーズ第三作。今回は一人の殺し屋に焦点をしぼり、その日常を描き出すという前2作とは違ったアプローチを試みている。これが見事に成功し、殺し屋たちの裏側をコミカルに映し出した。シリーズそのものの可能性を広げたとも言えよう。伊坂ワールドにもはや外れはない。
⑩「盤上の向日葵」柚月裕子
手に汗握るストーリー展開や読み応えのある文章力など、欠点がほとんど無い作品。将棋の世界を舞台に繰り広げられるミステリ。事件の鍵は将棋の駒が握っていた・・・。登場人物の生い立ちも詳細に描かれ興味深く、過去と現在のコントラストが見事にはまっている。潔いラストに涙がこぼれた。
⑪「この世の春」宮部みゆき
宮部時代物はお得感満載だ。一つの作品の中に、ミステリ要素はもちろんのこと、SF、ファンタジー、怪奇伝奇、人情と多岐にわたって盛り込めるからだ。数々のヒーローが宮部作品から生まれているが、ここにも新たなヒーローが生まれた。地味で渋いが活躍は痛快!
⑫「コーヒーが冷めないうちに」川口俊和
賛否両論あった作品ではあるが、あまり多くを求める作品ではないと思われる。また設定に細かく突っ込むことも無粋だろ。ライトな世界観の面白さや仮定の楽しさを堪能すればよいのではないか。登場人物の個性は魅力的だったし、ユーモラスな展開で気持ちを晴らしてくれた。
⑬「騎士団長殺し」村上春樹
村上春樹作品は言葉を楽しめる作品と違い、象徴世界を読み取るものはどちらかというと苦手だった。けれども今回の超常現象的な意味やテーマとなっていたメタファーについて考察を重ねるのは大変楽しかった。もちろんその理解は未熟なものかもしれないが、読み方としては間違っていたとは思わない。
⑭「罪の声」塩田武士
グリコ森永事件を題材に一部ノンフィクションを交えながら、昭和最大の未解決事件の一つを追う問題作。独特の観点で脚色をなし、ミステリとして仕上げた手腕には脱帽。勇気ある仮説で新展開を繰り広げてくれた。この仮説が真実だとすると、それはあまりに悲しく辛いものとなる。
⑮「琥珀の夢」伊集院静
サントリー創始者である鳥居信治郎とその家族の生涯を描く。そしてジャパニーズウイスキー誕生の物語。若き日の松下幸之助(パナソニック創業者)の目線からの始まりは斬新だった。経営の神髄や企業に大切なこと、商品作りの苦労や経営者の資質などを静かにじっくりと表現してくれた。
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