【2011年読書ランキング】で褒める

2021年10月11日

2011年読書ランキング

  1. 『ぼくのメジャースプーン』辻村深月
  2. 『錨を上げよ』百田尚樹
  3. 『絆回廊~新宿鮫Ⅹ~』大沢在昌
  4. 『スロウハイツの神様』辻村深月
  5. 『一刀斎夢録』浅田次郎
  6. 『下町ロケット』池井戸潤
  7. 『ジェノサイド』高野和明
  8. 『放蕩記』村山由佳
  9. 『ユリゴコロ』沼田まほかる
  10. 『信玄の軍配者』富樫倫太郎
  11. 『虚言少年』京極夏彦
  12. 『真夏の方程式』東野圭吾
  13. 『月と蟹』古市憲寿
  14. 『ダークゾーン』貴志祐介
  15. 『マザーズ』金原ひとみ

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「ぼくのメジャースプーン」辻村深月

辻村深月という作家は天才である。こんな哲学的とも言えるテーマを小説に落とし込んで描けるなんて。しかも彼女は当時20代、信じられない。一つ一つの言葉に人生の悟りさえ感じさせられる。作中に出てくる超能力を何に使い、何のため使い、何が大切なのか、それらを丁寧に教えてくれる。賢者の書物と断言したい。

②「錨を上げよ」百田尚樹

物語の主人公の破天荒の生き方は宮本輝氏の流転の海シリーズの松阪熊吾を思い起こさせる。人生そのものを丁寧に描き圧倒的な力で読者を虜にする。それにしても愚かで理不尽な男というのはどうしてこうもドラマの主人公たりえるのだろうか。おそらく人間味に溢れ、放っておけないという点がそうさせるのであろう。

③「絆回廊~新宿鮫Ⅹ~」大沢在昌

大人気シリーズ新宿鮫も10作目。初登場から20年が経った今回、ついに一区切りがつく形に。型破りの鮫島もいつしか読者の期待に沿ってしまうような落ち着きを見せつつあった昨今だが、そのことを恋人に指摘されてしまう・・・「あんたは新宿鮫なんだぜ」。ここから硬派で不器用な鮫島が完全復活する。

④「スロウハイツの神様」辻村深月

この作品にもっと早く出会いたかった。辻村深月さんを天才と認めざるを得ない。叙述の素晴らしさ、構成の見事さ、伏線の巧妙さ、会話の間合い、文章の美しさ、まさに芸術的な完成度。夢を語り、好きな事に没頭するスロウハイツの住民たちの人間関係の変化から目が離せない。そして導かれるのは至福の結末だ。

⑤「一刀斎夢録」浅田次郎

浅田次郎さんの描く新撰組シリーズ(「壬生義士伝」「輪違屋糸里」)第三弾。主人公は三番隊長“斎藤一”。前半は新撰組を内側から語るという視点が面白いのだが、徐々に一人の若者との関わりに焦点が移っていく。剣の道がなんたるかを語らずとも悟らせる斎藤の、いや浅田次郎さんの老練さに舌を巻いた。

⑥「下町ロケット」池井戸潤

この年の大本命「ジェノサイド」をおさえて直木賞受賞したのはこの作品。後年ドラマ化され誰もが知る名作に昇華された。最先端技術の特許をめぐり、中小企業と巨大企業が火花を散らす。小さくても技術は負けないというその意地とプライドが最後に奇跡をおこす。メーカーの人間として一緒に誇りを感じた一作。

⑦「ジェノサイド」高野和明

大作とはまさにこの作品のことを言う。超弩級のエンターテイメント。その世界観に驚かされ新たな高野さんの代表作となった。創薬化学の研究者に与えられた重大なミッションとは何なのか。手に汗握る展開と国家主義に対する痛烈な皮肉。親子の絆まで描ききって感動も呼ぶ。時代を超えて評価される素晴らしい作品であった。

⑧「放蕩記」村山由佳

半自伝的小説。村山由佳という作家を主人公に投影し赤裸々に綴っている。だが、正直ここまで描くのは勇気がいることだと思う。そのストレートな生き様が真に迫っている。母との葛藤などはこれまでのライトノベルや直木賞受賞作品にはなかったテイストだ。この作品前後から村山作品はかなり大胆になったのを覚えている。

⑨「ユリゴコロ」沼田まほかる

「人を殺す時だけ世界とつながれる」・・・創作なのか事実なのか、謎のノートが主人公の人生を一変させる。そしてあまりに意外なラストの清涼感。前半と後半で世界はガラッと変わる。異色のアプローチで作品を仕立て、ミステリの完成度より展開そのものの完成度を優先させたことが大成功した。多くの魅力的な人物が登場する。

⑩「信玄の軍配者」富樫倫太郎

信玄の名参謀・山本勘助のイメージが180度変わってしまった。ハンサムではなく醜顔とすることで、勘助の人生観の構築に説得力を持たせ、かつ丁寧な筆致でその活躍を面白く描いている。一方で勘助と友、君主、伴侶との関係は最高の人間ドラマに仕上がっており、見事というしかない。

⑪「虚言少年」京極夏彦

“人気者でもなければいじめられっ子でもない。そこそこ楽しくてそこそこ幸福な「僕」の特徴を一つあげるなら・・・僕は嘘つきなのだ”。このあらすじだけでも心掴まれるが、内容は輪をかけて面白い。小学生の頃、必ず一人はいるような子供を主人公として描ききる。ノスタルジックな気持ちに浸れた。

⑫「真夏の方程式」東野圭吾

TVシリーズとしてすっかり有名になっている湯川博士。ここ最近は映像の制約を受けてしまっていたように思えていたが、今作ではその制約を考えさせないような湯川ガリレオが楽しめる。動機の説得力が弱かったようにも思えたが、東野作品らしく切ないラストに従来のファンを満足させた。こちらも映画化されて大反響。

⑬「月と蟹」道尾秀介

5回連続のノミネートを経てようやく辿り着いた直木賞受賞。ミステリとしての完成度の高さや後半の大きなツイストが特徴の道尾さんだが、今作ではむしろそれを封印し純文学を思い起こさせる幹のしっかりとした小説となった。幼い頃の心の動きの描写が秀逸。作家としての幅が広がったのではないだろうか。

⑭「ダークゾーン」貴志祐介

設定は少々強引で説得力に欠けるものの。そのゲーム性エンタメ性はとても上手くそして面白く考えられていた。実際にこういうゲームがあってもよいと思えるくらいできが良かった。それでいて登場人物たちが杜撰にされているわkでもなく、この世界観の中できちんとドラマが描かれていた。手に汗握る展開が見物。

⑮「マザーズ」金原ひとみ

芥川賞作品「蛇にピアス」で非凡な才能を見せた金原さん。若者のひりひりするような世界の描写が印象的だったが、年月を重ね、母となって発表されたこの作品は今までの作風から大きな変化を見せていた。親としての苦悩、そこに正論や解答をあてはめるのは無意味。無力さ、限界を見せてこそ本当にリアルな描写と言える。