【『ヒトコブラクダ層ぜっと』万城目学】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)







久しぶりに読む万城目ワールド。かつて『プリンセス・トヨトミ』や『偉大なるしゅららぼん』、さらには『とっぴんぱらりの風太郎』などで独特かつ愉快でスピード感あふれる世界を楽しませてくれただけに、新作への期待が高まっていたのですが、『パーマネント新喜劇』からもう4年経っていたのですね。もともと遅筆な作家さんだけに、驚くほどではないものの時の流れを早く感じてしまいました。

いつもながら奇想天外で突飛な設定、そしてリアルなのかファンタジーなのかSFなのか、その境目もよくわからないままに物語は進んでいきます。万城目さん自身がインタビューでも答えていたように、これまでずっと日本国内を描いていたのに、一気にメソポタミアに舞台をうつしかなり挑戦的であったと思います。しかも時代は4000年前を行き来するという、こちらもかなり驚きの設定です。正直言って、いつも以上にこの世界観に浸るのに時間がかかりました。とはいえ、先日まで劉慈欣氏の『三体』を読んでいたこともあるのでしょう。そして万城目さんのユーモラスな文体もあったからでしょう。テンポ良く読み進めることはできました。

注目は三つ子の特殊能力。どんな能力かは本編を読んでいただくとして、この能力を活用しながら冒険は進みます。三つ子はやがて自衛隊に入隊し、活躍することになります。これがうまくキャラクター設定として成り立っていました。また三つ子だからと言って安易に、特徴が似ているとか、心が通じ合っているとかいう設定にはしていません。そのあたりは万城目さんらしいと感じました。また三つ子に成り行きで同行することになった自衛隊の上官にあたる女性がとても素敵でかっこいい。他にも愛すべきイラクの協力部隊のメンバーもいたりして、かなり賑やかです。

正直謎が多く、あまりにファンタジーの要素が強すぎるため頭で映像化するのがとても苦労させられました。ただ上巻ではとても理解ができなかったものの、下巻あたりから徐々にその世界が露わとなり、最終100ページくらいから真相が明らかになってくる部分は、それまでの鬱憤を晴らすかのような怒濤の展開でした。引っ張られただけあって、ここで胸のすくような思いをしましたね。加えて、驚きと少しの悲しさともう一度の驚き。終わってみれば「めでたしめでたし」という感じにまとめられていました。

最後に一言、“ぜっと”が何を指すのかは、誰も予想できなかったことでしょう。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★

世 界 観 ★★★★★

オススメ度 ★★★