【2013年読書ランキング】で褒める

2021年10月11日

2013年読書ランキング

  1. 『等伯』安部龍太郎
  2. 『とっぴんぱらりの風太郎』万城目学
  3. 『検察側の罪人』雫井脩介
  4. 『光圀伝』冲方丁
  5. 『祈りの幕が下りる時』東野圭吾
  6. 『友罪』薬丸岳
  7. 『海賊女王』皆川博子
  8. 『陽炎の門』葉室麟
  9. 『元気と勇気が出る仕事術』樋口廣太郎
  10. 『旅猫レポート』有川浩
  11. 『疾風ロンド』東野圭吾
  12. 『あい』高田郁
  13. 『無花果とムーン』桜庭一樹
  14. 『夢幻花』東野圭吾
  15. 『島はぼくらと』辻村深月

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「等伯」安部龍太郎

長谷川等伯という画家の生涯を重厚かつ緻密に描ききった直木賞受賞にふさわしい傑作。養父母の死や延暦寺の焼き討ち、狩野永徳との対決、妻・息子との関係など読み応え十分。その全てに満足感が得られる安心した構成は見事と言うほかない。等伯の絵をぜひとも見て欲しい。

②「とっぴんぱらりの風太郎」万城目学

「面白い」というのはこういう作品の事を言うのだろう。分厚い作品だがページをめくる手がとまらず一気読みできた。タイトルがやや軽いように感じるが、中身はしっかりしており、風太郎の成長や忍者としての葛藤、生き様など時間も含め共有することができた。物語の綴じ方も余韻を与え、風太郎という人間が心に刻まれた。

③「検察側の罪人」東野圭吾

ミステリという点ではこの年一番の作品となったかもしれない。設定がかなり非現実的なところもあるが、問題提起としては成功している。取り調べの歪みを訴えるだけでなく、罪を犯した人間、罪を裁く人間、それぞれの立場の心の動きも上手く映し出せている。結末に何を思うかは読者によって大きく異なることだろう。

④「光圀伝」冲方丁

水戸光圀を描くにあたり「水戸黄門」をあえて見なかったという冲方氏。その甲斐あって、かなり斬新な光圀像となったように思える。途中からTVの清廉潔白な光圀は完全に払拭された。それでいて、この光圀にも魅力を感じ「本当はこんな人物だったのではないか」と思わせるだけの力がこの小説にはあった。

⑤「祈りの幕が下りる時」東野圭吾

数ある加賀恭一郎シリーズ作品の中でも、彼の生い立ちに迫る作品としは「赤い指」以来。今作を読む事で恭一郎のバックボーンがある程度明らかになる。もちろん本題はある殺人事件を追うストーリーになっており、本編として文句なく面白い。切なさは控えめだったがやはり心を掴まれる。

⑥「友罪」薬丸岳

犯罪者に対して私たちはどう接したら良いのか。実際にその立場に立ったらどういう気持ちになるのか。かなり重いテーマになっており、日本版「罪と罰」と言えようか。自分なりに解答を出しながら読み進めたが、結局最後はその考えを全て否定されたようだった。「罪」についてもっと深く考えなければならないと思えた。

⑦「海賊女王」皆川博子

大作を書かせたら超一流の皆川博子氏。アイルランドの女海賊・グローニャは男勝りの豪傑で、戦いと後悔にあけくれ、英国に取り込まれる事なく、誇りある生涯を貫いた。強く美しく、読後の感動がたまらない。この年話題になった似たテーマの「村上海賊の娘」よりこちらの方がスケールが大きかった。

⑧「陽炎の門」葉室麟

時代小説は苦手なのだが、葉室時代小説はとても読みやすくいつも楽しめる。主人公の妻は自らの手で解釈した親友の妻、そして妻の弟が仇敵に・・・という設定だけでもかなり面白い。人物描写も丁寧で魅力的。そしてミステリ要素も散りばめられており、作品の幅の大きさを感じる。

⑨「元気と勇気が出る仕事術」樋口廣太郎

上司から勧められて読んだビジネス書。アサヒビールを急成長させ業界1位に押し上げた樋口廣太郎氏の仕事、管理職の働き方について法則化し、わかりやすく指南してくれる。職場を通して人格を形成するというのは経営のカリスマである稲盛和夫氏の哲学でもあるが、成功者の言葉は含蓄がある。

⑩「旅猫レポート」有川浩

もともとこの手の泣かせようとするタイプの作品は好きではなかった。連作短編形式でもあり、ライトな文章、短絡的にも見える主人公の行動にも共感できなかった。にも関わらず、最後の最後に涙を流す事になってしまったのだが、何故だろう、心地よかった。意地を張らずに素直になれば作品の素晴らしさに気づくはず。

⑪「疾風ロンド」東野圭吾

久しぶりにスピード感ある小説を読めた気がする。思えば昔の東野作品や宮部作品にはこの疾風怒濤の展開が多かったように思える。「生物兵器をばらまく」という脅しをかけた犯人が死んでしまうという奇想天外でユーモラスなドタバタ劇が今始まる。

⑫「あい」高田郁

この年は大河小説が上位を占め、大作に酔いしれた1年だったが、このような佳作もなかなか捨てがたい。豪傑や英雄ではないけれど、少女として妻として母として女性として、喜びも悲しみも、人生の全てを詰め込んだ優良な作品だった。どちらかというと辛い事が多い人生ではあったものの、それが不幸とは結びつかないのだ。

⑬「無花果とムーン」桜庭一樹

短編小説と相性が悪かったが、今作とは波長があった。もらわれっ子の主人公しか知らない兄の死の秘密。彼女の中でその思い出が膨れ上がり、やがて・・・。今時の若い女子高生の視点を残し、一見軽薄さを感じるかもしれないが、むしろそうすることで物語のスパイスとなってピリリと効いていた。真相には泣かされる。

⑭「夢幻花」東野圭吾

東野圭吾さんの渾身の作品。さすがに構成がしっかりしており、ミステリとして優等生的な作品に仕上がっている。殺人事件と恋物語が次第に絡み合っていく展開は読み手を夢中にさせるのではないか。ランキング上位の2作より派手さはなかったが、安定さは抜群だった。

⑮「島はぼくらと」辻村深月

辻村深月ワールドのスタート地点にたつストレートな青春小説。繊細な作者だからこそ、この微妙な人間関係を描写できたのだろう。4人の少年少女のやるせなさや本音の部分が、時には美しく時には醜く表現されている。これまで温かくも鋭い目線が多かった辻村さんが柔らかさを纏って新境地を切り開いたようだ。