【『レベル7』宮部みゆき】を薦める

読書のススメ(5分で読めるよ)







大学卒業後、しばらく本を読まなくなった時期がありました。文豪と呼ばれる大御所の作品に疲れ、海外作品が嫌いになり、W村上(村上春樹さん、村上龍さん)など当代の作家さんに飽きてしまったのです。いわゆる読書スランプというやつですね。この頃は、本を読みはじめても、100ページまで辿り着かず、そこでまた最初から読み直したり、登場人物を確認し直したり、そのまま挫折したりしてました。活字を追いかけるのが面倒になり、内容が頭に入ってこなくなりました。

数年のブランクの後に、ある作品(宮本輝さんの『流転の海』シリーズ)をきっかけに、ようやくスランプを脱することができた私は、反動でその数年間のブランクを埋めるべく、立て続けに本を読み漁ったのですが、その時にハマったのが“宮部みゆき”さんだったのです。当時30代半ばだった宮部さん。ショートカットの可愛らしい女性で、あまり作家さんという感じがしなかったのを覚えています。しかし作風は多才で、推理小説・ミステリはもちろんSFや時代小説まで扱うという幅広い執筆活動。加えて作品の中で扱う事件描写が結構猟奇的で、「こんな可愛らしい人が、こんなにえげつない描写ができるんだ」と衝撃を受けたのです。『魔術はささやく』『龍は眠る』『パーフェクトブルー』『蒲生邸事件』『ステップファザーステップ』などなど、刊行されていた作品を次々に手にとって、それまでのスランプが嘘のように読破していけたのです。

100ページの壁をなかなか越えられなかった私ですが、宮部作品については、50ページ、いや30ページ、それこそ面白いものであれば数ページ読むだけで、一気に作品にのめり込みラストまで止まらずに読みきれるのです。ジェットコースターにでも乗っているようなそんな気がしましたね。後にホームページを作ったときに、“ジェットコースター作家”と何ともネーミングセンスの無い紹介文をつけて、宮部みゆき特集を組んだくらいです。今回は“読者を瞬時に掴む”としましたが、ニュアンス伝わってますか?この頃は「好きな作家さんは?」と聞かれたら迷わず「宮部みゆきさんです」と答えていました。

そして出会った『レベル7』。2000年のランキングの1位作品であり、名刺代わりの10選にも入れている作品です。これぞミステリ、今でも「ミステリ」と言われて思い浮かべるのはこの作品です。

~「レベル7」まで言ったら戻れない。謎の言葉を残して失踪した女子高生。記憶を全て失って目覚めた若い男女の腕に浮かび上がった「Level7」の文字。二つの追跡行はやがて交錯し、思いもかけない凶悪な殺人事件へと導いていく~

新潮文庫のあらすじには今でも頭から離れないくらい胸つかまれました。少し恐ろしいような、それでいてどういうことなのか真相を知りたいような、とにかく結末が気になって気になって夢中で読み進めたのを覚えています。時代を超えて交錯する二つの事件。これをうまく絡ませてエンターテイメントとして見事な仕上がりを見せてくれます。それを盛り上げてくれるのが真行寺悦子・ゆかり親子とジャーナリストの三枝隆男。真行寺悦子がカウンセリングをしていた貝原みさおが失踪したことに端を発した事件。それが一家惨殺事件や火災事故につながり徐々に明らかになってくる真相。実は実際にあった火災事故や虐待事件を背景として練り上げられた作品で、社会派作品としても高い評価を受けたようです。

復讐の物語性あり、過去との訣別あり、救出劇あり、盛りだくさんのお得な一冊と言えるでしょうね。

レビュー

<読みやすさ>

初期の宮部作品はどれもとても読みやすいものばかりです。この作品も例に漏れずあっという間に読むことができるでしょう。

<面 白 さ>

あらゆる面白さの詰まった非常に中身の濃い作品だと言えます。またミステリの醍醐味を味わうことができるでしょう。

<上 手 さ>

文章の構成はとても上手いです。展開は早く上手いというより若いという感じで、勢いを感じられる作品です。

<世 界 観>

舞台背景が壮大というわけではありませんが、思いもよらない大きな事件のつながりが、時間や空間に幅を持たせ広がりを感じることができるでしょう。

<オススメ度>

小説が持つ魅力を存分に味わえる作品です。装丁は少し暗く恐ろしく思えるかもしれませんが、中身はコミカルで微笑ましいところもたくさんあり、入門編としてもお勧めできます。