【フェルメール】を褒める

2022年7月15日

《特殊な技法で独特な作品を残す謎多き光の魔術師》

2019年大阪で開かれたフェルメール展。日本では人気の画家の一人でもあり、私も当然展覧会へと足を運びました。大きな関心を集め盛況となったこの催しですが、大々的な宣伝とは裏腹に展示された作品はたったの6つ。「えっ、たったそれだけ?」と思われた方も多くおられたのではないでしょうか。たしかに通常の展覧会であれば物足りなく感じるのも無理はありません。しかしながら、生涯残された作品は35点しかないフェルメールの作品。今回その6分の1が展示されたと聞けば印象も変わるでしょう。そう、フェルメールは寡作の画家なのです。しかもその生涯はあまり明らかになっておらず、謎多き画家でもありました。

オランダ第4の都市デルフトに生まれたフェルメール。彼は一度の旅行を除いて、この故郷の街から出ることはありませんでした。全体的に光の明るさが作品を包んでおり、上品で静謐な絵画こそが彼の真骨頂でした。私は彼が編み出した独特の手法を知ったとき、一旦はフェルメールの作品が嫌いになってしまいました。すなわち輪郭のトレースです。カメラ・オブスクーラと呼ばれる暗箱を使うことでキャンバスに対象物を映し出したのです。フェルメールはこれを使って輪郭をなぞったため、とても精緻で安定した描写ができたのです。

しかしながら、それってフリーハンドの絵画に対する侮辱のようにも私には思えてしまったのです。けれどもこの手法には、光の粒子をも捉えることができたり、手前の対象が大きく写ることで主題をわかりやすくクローズアップできたのです。単にトレースに頼ったということではなく、フェルメールにとって輪郭はあまり重要なことではなかったんですね。それを受け入れてフェルメールの作品を見ると驚きました。光は白い点描にて表現され、登場人物は背景を脇に追いやり、その存在感を十二分に見せつけているのです。これこそがカメラ・オブスクーラの効果なのかもしれません。また暗箱を通して見た世界だからでしょうか、薄暗い背景が多く、その事が余計に差す光の輝きを際立たせているのでした。そもそも色の使い方は独特で、見るものの心をすぐに捉えます。いつのまにか、私はフェルメールの虜となりました。多くの日本人が彼の絵にやすらぎを見いだしたことでしょう。

またフェルメールの絵画から、その物語のキーとなるような要素がたくさん見いだせます。例えば『取り持ち女』においては娼婦にまわした手が欲望を表していたり、『恋文』ではラブレターを手にし不安そうな目線を送ることで、恋する乙女心を表現していたり。最高傑作の1つである『レースを編む女』からは慎ましくも一心不乱に編み物をしている集中力が作品を通してこちらまで伝わってくるようでした。

またフェルメールの作品は、部屋の中の様子を描いたものが多いのですが、カーテンがよく使われています。構図のバランスをとりつつ、その色で物語の雰囲気を醸し出しているかのようです。謎多き画家の作品には作品にもその謎が多いものの、その考察などが楽しめたりします。

残念ながら43歳の若さで亡くなったフェルメールの遺産管財人となったのが、生物学者のアントニー・ファン・レーウェンフック氏。後の顕微鏡分野の偉大な科学者と、どういう繋がりがあったのかも謎に包まれているようです。

おすすめ10選

『レースを編む女』

『地理学者』

『青いターバンの少女(真珠の耳飾りの少女)』

『手紙を読む婦人』

『牛乳を注ぐ女』

『画家のアトリエ』

『恋文』

『取り持ち女』

『デルフトの小路』

『天文学者』