【『ゴールデンタイムの消費期限』斜線堂有紀】を褒める

2021年7月2日

読了後の感想(過去の読了分:3分で読めるよ)








特徴的なそのお名前と、洗練された装丁の単行本がとても魅力的な斜線堂有紀先生の作品。何か読んでみたいなと思っていたところ、ちょうど新刊が出たので早速手に取って読んでみたのですが、噂に違わぬ筆力であっという間に読破したのを昨日のことのように思い出します。現在、精力的に執筆活動を行われているので、他の作品もぜひ読んでみたいところです。

今作は幼い頃、天才児だったものの成長とともにその輝きを失っていた子供たちを集めて再生を図るというレミントンプロジェクトという話です。この冒頭を読むだけでも興味がひかれます。これまで実際にこのような例を私たちは見たりしてきます。「そう言えば、あの子最近みなくなったね」「あれ、この子って昔、天才って言われたいた子だよね」なんて会話、ありますもんね。でもその当事者からすると本当に大変なことだと思います。“10で神童、15で天才、20過ぎればただの人”という諺にあるように、幼い頃の天才児は必ずしもそのまま天才として成人するわけではありません。だからと言って誰もが全員才能をうもらせたわけでもありませんし、大人になってから復活を遂げる人もいるわけですから、そのあたりが難しいところです。

この作品にはもう一つ主題があってこのような天才たちの個性とは別に、AIによって導き出される答えの正当性のようなものがどこまでのものなのか問われていると思います。作中に出てくるAIは完璧に近いものとして描き出されています。すなわち、才能を失った子供たちにこのAIの解答をなぞらえさせることで、再度才能をよみがえらせようとしているのですから。もちろん「よみがえる」の定義も作中から問いたださなければなりませんが。

これ以上はネタバレになるので書けませんが、私なりに一つ思ったことがあります。それは天才の個性もAIの解答もどちらも社会にとって有用だということです。それはケースバイケースで必要とされてくる場面が違うし、また求める人たちも違うのです。時に我々は画一的なAIの解答をよしとしますし、時に唯一無二の個性をよしとするのです。こういう観点で見れば、最後に登場人物たちがそれぞれ選んだ未来が、うなずけるものとなるように思えました。小説家・ヴァイオリニスト・料理人・画家・映画監督・棋士・・・それぞれの人生の行く末を心に思い浮かべるのも有意義でしたね。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★