【ターナー】を褒める

2022年7月15日

《空気と光に色を与えた意欲高き秘密主義者》

私の職場のデスクには鮮やかな黄色に染まったクロスが置かれています。3年前のターナー展にて手にいれたものです。そこに表されているのは眩しいまでの光であり、この黄色の使い方をする画家はターナーをおいて他にないでしょう。

イギリスロマン主義の風景画家ターナーは幼い頃から近くのテムズ川を愛し育ちました。この生い立ちがターナーの自然を見つめる目を養ったのでしょう。やがて頭角を表し、驚くほど精力的な創作活動にうちこみます。30歳を迎える頃にはすでに成功者の仲間入りをしていたターナーですが、そのプライベートや活動内容は異常なまでの秘密主義によって明らかになっていないようです。偏屈者としての評判もそのようなターナーの秘密主義から出てきたものでしょう。

名声を得たとはいえ、彼の才能は宮廷ではあまり花開かず、ヴェネツィアにおいて描くことになった風景画で大きく飛躍を見せるのでした。

いつもどおり、私は彼に対する専門的な美術史的観点を持っておりませんし、拙い知識を大した吟味をしないまま、素人の直感として、ここからターナーを褒めていきたいと思います。間違い等気になるお方もいらっしゃるかと思いますが、素人の戯言とどうぞ笑って許してやってください。

私は、彼のこの光の表現に着目しましたが、この記事を書くきっかけにもなった花鶏氏の「この人のような空気を描きたい」という発言に、再度ターナーの絵について調べ直しました。そして見つけた「空気遠近法」という言葉。奥の部分には青色(空でしょうか)を多用し、手前の部分には黄色(光や日差しでしょうか)を多用、その合間は白色(空気)によって、表現していると言うのです。私の最大の褒めポイントは、本来色のついていないはずの、“空”、“空気”、“光”に明確な色を与え、その役割をはっきりさせることで、見えないものを見えるものにしたところです。そして、単純に三色を組み合わせてるのではなく、「狂ったように絵の具をかきまぜ、ひっかき、こすり落とした」ことでグラデーションを実現したその執念に感動を覚えるのです。

さらにターナーは構図の素晴らしさも高い評価を受けています。見るものが安心して見ていられるような幻とも言える黄金比率をターナーは追い求め続けたと考えられます。それは答えのない永遠のテーマにも思えますが、ターナーは、数多く残した自らの作品に対して妥協なく向き合ってきたのでしょう。だから我々の心をとらえるのですね。そして、その安定の構図の中に、風や嵐を思わせる(考えてみれば、これらも目に見えない)渦を巻く技法が効果を見せるのです。この渦の大きさが自然の状況を饒舌に物語ってくれるのです。見えないものを見せるターナーの本領発揮ですね。

最後にターナーは自身の作品を子供のように愛し、作品をひとつの場所に保存されることを望んだとか。今ではテート美術館に2万点を越える作品が集められているとのこと。これもまた、この記事を書く前に花鶏さんと「作品は自分の分身、子供のようなもの」と話していたのを裏付けるような事実でした。

 

おすすめ10選

『風下側の海辺にいる漁師たち、時化模様』

『戦艦テメレール号』

『のろしと青い光』
『雨、蒸気、速力 グレートウエスタン鉄道』

『平和、海葬』

『難破のあとの夜明け』

『ノラム城、日の出』

『吹雪、アルプスを越えるハンニバルとその軍勢』

『ヴェネツィア、月の出』

『奴隷船』