【『タルト・タタンの夢』近藤史恵】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)






『シェフは名探偵』のタイトルでドラマ化が決まったせいか、あちこちでこの本の話題が出てきていたので、遅ればせながら私も読んでみることにしました。その背景にTwitterの読書仲間たちの推薦が多くあったことはもちろんです。私にとって近藤史恵さんというと「サクリファイスシリーズ」。自転車ロードレースを題材としたスポーツ小説、しかもみずみずしい青春小説が印象的(というよりそのシリーズしか読んだことがなかった)だったため、料理小説というイメージがあまりなくってとても新鮮でした。料理ものとしては高田郁さんの「みをつくし料理帖シリーズ」が有名ですが、こちらは逆にスポーツもののイメージがありませんものね。

構成は連作短編というよりは独立したショートショートが連なっており、それぞれのエピソードとともにテーマとなる料理(どちらかというと食材がテーマかな)を基に物語が作られていました。そしてそれらが軽いミステリとなっており、ドラマのタイトルのごとく、シェフが小さな手掛かりを元に謎を解き明かすという仕立てになっています。小気味よいテンポと、なんと言っても「誰も死なないミステリ」(最近はこのジャンルを探す読者さんも増えてきましたね)ということで、殺伐とした展開が苦手な方でも楽しめる作品となっています。

そして主人公のギャルソンの男の子がとても可愛らしく周りの引き立て役となっています。正直なところ、作品に大掛かりなものは一切なく、派手さには欠けると思います。またちょっとした会話だけで全ての謎を解き明かすのはあまりに無理があり、ミステリとしてのクオリティは決して高くありません。けれどもこの作品は、そうだからこそ良いのです。これをもっとミステリとしてのクオリティを高めたところで作品自体のクオリティはむしろ下がってしまうことでしょう。リアリティを追求するストーリーに密室やダイイングメッセージが不要なように、この作品にもそれらの多くの要素は必要ないと思うのです。だからこそ人間関係を楽しめ、テンポよい展開を楽しめ、料理を楽しむことができるのでしょう。ちなみにこのシェフ、ちょっとクセ者ですから要注意。

この作品も既にシリーズ続編が出されており「ヴァン・ショーをあなたに」「マカロンはマカロン」と続きます。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★