【ダヴィッド】を褒める

《迸る感情を理性で制御し時代の寵児となった新古典主義の代表画家》

美術あるいは社会の教科書で一度は見た事があるであろうナポレオンの勇ましい絵画。おそらくそれはダヴィッドが描いたものでしょう。はっきりとした輪郭と均整のとれた構図で、誰もがため息をつきそうなくらい完璧という言葉が似あうダヴィッドの作品。けれども私はとても不思議でした。こんなに勇壮で情熱的にさえ感じるダヴィッドが何故、理性・秩序を重んじる新古典主義に属しているのか。感性を重んじたロマン主義ではなかったのか、荘厳で華やかなロココをどうして激しく非難したのか本当にわからなかったのです。私は専門家ではありませんので、しっかりと勉強したわけでもありませんし、褒めたいところをただ褒めているだけなので無知もいいとこです。美術の褒め記事も今回で50作目なので、流石に知識が追い付かなくなってきた頃でもあります(いきなりのカミングアウトw)。もちろん褒めポイントはたくさんあるので、今回記事を作るにあたってはダヴィッドについて調べてみました。そして私なりに解釈したところを交えてお話ししましょう。美術史的に間違っていたらごめんなさい。

まず皆さんと一緒に整理しておきましょう。ダヴィッドが幼い頃は華やかで優雅、自由奔放な作風を重んじたロココが隆盛を極めていました。実際にダヴィッドもロココの巨匠ブーシェに師事し、絵画を学んでいます。けれどもロココは当時「破廉恥」とまで言われた挑戦的で少し時代を先取りしすぎたものでもありました。真面目なダヴィッドはそんな風潮を認められず、むしろルネサンス期の巨匠ラファエロに感銘を受けて自身の作風を次第に変えていく事になります。(実際初期作品である「マルスとミネルヴァのたたかい」などは背景にロココの影響が多分に出ていることがわかります。)そしてダヴィッドは気品・気高さ・崇高さを追い求めて古典の巨匠に傾倒し、アングルとともに新古典主義の代表画家として君臨することになりました。対峙したのはゴヤ、ジェリコー、ドラクロワ、ターナーといったロマン主義。理性を重んじた新古典主義に対して、感性を重んじたのが他でもないロマン主義でした。私の違和感はここにありました。「ダヴィッドって情熱的だから感性を感じてしまう・・・」専門家には笑われてしまうかもしれませんが、私にはそう思えたのです。この回答を今回自分で見つけましたがそれは後程お話しすることにします。

ダヴィッドは美しさの追求をルネサンスに見出す中でミケランジェロの見事な彫刻をヒントにしたのでしょうか、彫刻の研究にいそしむのでした。そしてそれが、私達の目にもはっきりとわかる輪郭線などにあらわれ、秩序・正義・道徳・高潔という表現を可能にしたのでした。一方でその画法は柔らかい布でさえも鑿(のみ)で掘ったようは堅い衣服を創り出してしまい、すべての作品があたかも演劇の1シーンのような堅苦しさも与えてしまったのです。これは英雄描写にはうってつけで、後にナポレオンをはじめ権威者から好まれた要因となったのは言うまでもありませんね。結果として光の明暗や丁寧な装飾、さらには細かい描写などをあきらめ、人物や重要部分の写実性を形式で切り取った結果、後の美術史で受け皿を無くし、バルビゾン派や印象派を受け入れられないサロン画の隆盛に繋がったのは少し残念な気もします。

けれどもダヴィッドはそこまで感性のない、冷たい画家だったのでしょうか。新古典主義という括りでダヴィッドをまとめられるのでしょうか。私の拭いきれない違和感は、その生涯をフォーカスしたときに氷解しました。もともと彼はロココの出自であること、純粋に絵画に魅せられルネサンス美術に感銘を受けたこと、革命に思いを寄せ積極的に政治的活動を行ったことなどからも、ダヴィッドの人間性がいかに情熱的で優れた感性を持っていたかは明らかです。結局、手法としては理性的な表現を選んだとはいえ、内面からにじみ出るダヴィッドの作品に対する熱い思いは、手法を越えて見る者の心を揺さぶり続けたのではないでしょうか。これって凄い事だなと思います。“能ある鷹は爪を隠す”を地で行くようなことではないかと思うのです。実際ダヴィッド自身「画家は個性を作品に表現してはいけないという理論にはとらわれたくない」としていたようで、革命という大きな歴史の波の中で、勇気・献身・愛国心・自由という刺激を受けたダヴィッド。・・・ん?このフレーズ、あたかも対峙していたドラクロワの「民衆を導く自由の女神」の触れ込みのようではないですか!?それほどまでに迸る情熱を抑え込み、自身の信じる美学を貫いて時代の寵児となったダヴィッド、褒めずにはいられません。

後年、革命が崩壊し危うくギロチンで処刑されそうになったダヴィッドはようやく新古典主義の呪縛から解放されたかのごとく、やわらかな芸術性を披露します。その最高傑作が「レカミエ婦人」ではないでしょうか。この作品には新古典主義の良さに加えて、ロマン主義を思わせる素晴らしい感性を我々に感じさせてくれます。

おすすめ10選

『サン・ベルナール峠のナポレオン』

『レカミエ婦人』

『ナポレオン一世と皇后ジョセフィーヌの戴冠式』

『ソクラテスの死』

『ホラティウス兄弟の誓い』

『マルスとミネルヴァの戦い』

『マルスとヴィーナス』

『マラーの死』

『息子の遺骸を迎えるブルータス』