【『水を縫う』寺地はるな】を褒める

2021年6月19日

読了後の感想(3分で読めるよ)




こちらもSNSで見かけることの多かった作家さんで、寺地はるなさん初読みとなります。なるほど、とても素晴らしい作家さんで、心の機微をうまく表すと同時に、その心の移り変わりを事象を交えて、無理なく整えていかれてました。家族の成長(一部再生)を6章から映し出し、見事に清らかな結末に着地するという好感度の高い作品です。そして作品の内容から取るわけではないのですが、とても淀みなく読むことができました。

帯の紹介文があまりに言い得て妙なので引用しますが「男なのに」刺繍が好きな男の子、「女なのに」かわいいものが苦手な女性、愛情豊かは母親になれなかった母親、まっとうな親になれなかった父親などなど、一つの家族をもとに様々な立場の状況を描きます。冒頭は、風変わりな登場人物たちがいじめや偏見に悩み苦しみ闘う物語かと思いましたが、その要素はほとんどありません。もちろんジェンダーの考え方に触れる場面もありますが、解釈は比較的緩やかです。

本作品も連作短編ですが、私は意外なところに共通点というか関係性を見出しました。それは、どの立場の登場人物も子供から大人への成長(この場合は父も母も祖母でさえも)が描かれている事です。これは私もそうなのですが、大人になった今でも、親に対しては子供であり続けています。そして子供のような感情が巻き起こります。そのことに焦りつつも甘えたり、それでいてこの年になっても親の影響を受けずにはいられないということです。我々はどの世代においても、子供であり大人になろうとしているものですね。

また父親の友人が登場する章もあって、最初違和感を覚える設定だったのですが、読み進めていくうちにこの作品における一つのメッセージを感じるエピソードとなっており、やはり欠かせないピースであったことを知りました。

さて中身だけではなくタイトルについても触れておかねばなりません。なんだか三浦しをんさんの『舟を編む』を思わせるタイトルですが、決して二番煎じではありません。読み終えれば深い意味に気づかされると思います。近年の作家さんはこのタイトルの命名が非常に優れていると思うのですが、その中でも特別秀逸なタイトルだと感じました。冒頭申し上げたとおり淀みのなさを感じとることができました。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★★