【『桜のような僕の恋人』宇山佳祐】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)








多くの方に薦められ、また映像化決定ということで話題になっていたこともあって、久しぶりに文庫の購入となりました。が、大正解でした。「泣ける」との評判どおり泣かせていただきました。泣く感じとしては荻原浩さんの「明日の記憶」に近いものがあったかもしれません。一部、「泣かせようとしすぎ」という声も見聞きしては居ましたが、私自身はそんな作為的な部分は感じず(というか小説にする時点で全て作為と言えば作為なんだろうし)、素直に感動することができましたよ。出会いから少し淡泊な展開という声も聞いておりましたが、そういう見方もできる一方で時間の短さ、儚さを感じることもできるのではないかと思っています。

ライトな青春小説として始まる明るい展開ですが、結末を予感させる冒頭があるので、読み手としては来たるべき時を準備しながら読んでいく形になります。昨年話題になった「100日後に死ぬワニ」のような感覚でしょうか。それでも序盤はそのことを忘れるかのようにピュアな恋愛を温かく見守ることができます。

しかし主人公が恋した女性はファストフォワード症候群という通常より何十倍もの早さで老いてしまう難病だったのです(ネタバレじゃないからね)。これ、私思わず調べてしまいました。驚く事に実際にある病気(ウェルナー症候群)でした。しかも私は数年前にこの病気と闘う少年のドキュメンタリー番組見ていたのでした。その番組では17年という短い生涯を駆け抜けた少年を追いかけていましたが、すでに早期老化状態にあり放送から間もなくして亡くなったのでした。病気については他の病気で苦しまれている方、また病気でなくても命を失う方と比較するものではありませんので、あくまで小説の観点でお話をしますが、女性にとってはこの病気はつらいものかもしれませんね。

褒め記事なので褒めづらいところでも褒めさせていただきますが、病気そのもののメッセージもさることながら、闘病における女性の気持ちに迫ったところが評価ポイントとなるでしょう。それはとても健気で、読む者の心を鷲掴みにします。そして主人公が激しく後悔していることは一体何なのか、その事がわかったとき、私は涙を抑える事ができませんでした。この作品は結末について予想する事は簡単です。けれどもミステリとは違って、真相が明らかになること以上にその結末に向かって登場人物たちがどのように行動していくか、どのように感じていくかが大切なんだと思います。ストレートに心揺さぶられていいのではないでしょうか。

 

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★★