【『獣の奏者』上橋菜穂子】を薦める

読書のススメ(2分で読めるよ)

昔はライトファンタジーの存在感は大きいとは言えず、ヒット作品でも読者層全体を巻き込むのは困難だったように思います。しかしながら近年、その勢いは無視できないものであり、むしろ注目の的でもあります。小野不由美さんの『十二国記』は多くのメディアにも取り上げられ、様々な形で書籍も発行され、アニメ化に伴い関連書籍、関連商品が飛ぶように売れました。今日紹介する『獣の奏者』もそれによく似ていて、ファン層はほぼ全てを網羅しているように思います。

リョザ神王国という世界を舞台に、二手にわかれた領民たちの争いを描きながら、主人公エリンの成長を描く青春大河小説です。そして登場する獣「王獣」「闘蛇」はこの国に、そしてエリン達に一体どのような影響を与えていくのでしょうか。この世界設定が見事すぎるくらい見事です。『十二国記』もそうですが、優れたファンタジー作品はいずれも世界設定がうまくいっています。その設定が読者を夢中にさせ、説得力を与えるのです。私は『ハリーポッター』シリーズがより完璧な世界設定であれば、もっともっと素晴らしい作品になったと思っているくらいです(もちろん、今のままで面白さは突き抜けているのですが)。

話が横道に逸れてしまいました。元々2巻で終わっていたこの物語は、追加された3・4巻を読むと、2巻までの世界設定というか、あえて矛盾と言っておきましょうか。そういうものが見えてくるのです。2巻だけではわからない矛盾、その伏線回収的に大団円が為されます。『ハリーポッター』でもこのようなことってあると思うのです。上橋さんのコメントを読むと、決して伏線を張ったのではないことはわかるのですが、3・4巻を読むともはやそうとしか思えないくらいの着地があまりに素晴らしいと思っています。余談ですが、私の大好きなエアリスが登場する『ファイナルファンタジー7』も似たようなことが言えます。後発の『ファイナルファンタジー7クライシスコア』をプレイすると、あたかもクライシスコアがありきで、本編が作られたとしか思えないようなことが次々と出てきます。現在『ファイナルファンタジー7リメイク』が発売され、多くの方に『7』の素晴らしさが伝わり、続きを待てない方が続々と『ファイナルファンタジー7』本編をプレイしているようですが、お願いだから『クライシスコア』もやってと言いたいですね。あ~脱線ばっかりだ~。

主人公エリンについては私の理想の子供像でした。後に母親となり息子ジェシが生まれるとこれまた理想の子供像となっていきます。とにかくこの二人が素晴らしいのです。かつて私は自分の子供たちに「ナウシカ」のようになって欲しいと思っていましたが、それに近いくらい「エリン」のようになって欲しいと思っちゃいましたよ。

レビュー

<読みやすさ>

読みやすいどころではありません。あっという間に巻末を迎えてしまい不満なくらいです。そう読み足りない。もっともっと読みたいと中毒症状を起こすくらい、この世界を求めてしまいます。当然、読むことに負荷などかかるはずもなく、途中からはマンガを読んでいるくらいの感覚にとらわれたくらいです。中学生以上ならなんなく読めることでしょう。

<面 白 さ>

これを面白いと言わずして何を面白いというのでしょうか。夢中で読みました。主人公の成長、親子の絆、友情、設定、展開、どれをとっても全く隙の無い面白さ。それぞれ外伝をもっと作れそうなくらいで、コンテンツとしてかなり優秀です。NHKでアニメ化されていましたが、こちらも素晴らしい作品でしたので併せておすすめします。

<上 手 さ>

実は語りがとても上手で、誰もがひきこまれる文体が人気の一つではないでしょうか。味のある表現も多く、何度も涙した読者も多いことでしょう。それでいてわざとらしくもなく、衒いの無い作風が安心感を与えてくれます。ライトファンタジーの持つ夢と希望、魅力を最大限に堪能させてくれる良質な作品です。

<世 界 観>

この作品は世界設定の勝利ではないでしょうか。特に本来『王獣編』で終わらせていたにも関わらず、むしろ続編2作品をもって完璧になるあたり、初めからその設定だったのではないかと思えるほど。王国の在り方、真王領と大公領の争いや王獣や闘蛇の関係性など、見事すぎる世界構築に頭が下がる思いです。

<オススメ度>

おすすめと言いながらテーマ的におすすめしきれないこと、結末が悲しすぎておすすめしたいんだかどうかよくわからないこと、描写がすばらしすぎて目を背きたくなること、読者層を選んだりすることなど、色々障壁があることを感じているのですが、今回は諸手をあげておすすめできます。誰にでも読んでもらいたいし、上記のような迷いはありません。ぜひぜひ読んでください。