【『海賊とよばれた男』百田尚樹】を薦める

読書のススメ(2分で読めるよ)

本を読む目的は様々ありますね。私達が体験しえないような人生を疑似体験したり、謎の事件の真相に迫る緊張感を味わったり、あり得ない空想の世界を楽しんだり、読んでいる時間を面白おかしく過ごして日常の喧騒から逃れたり。その中で、歴史上の偉大な人物の功績を知るということもあるかと思います。歴史小説や偉人伝、自叙伝などに見られる目的の一つです。今日紹介する『海賊と呼ばれた男』の主人公・国岡鐵造は出光興産の創始者である出光佐三がモデルです。私はこの作品を読んで、普段何気なくガソリンを入れていた出光にとても興味を惹かれました。当分、出光で給油するクセがついたくらいです。何故にそこまで影響されるのか、やはり偉人というのはそれだけのものを持っているものなのですよ。それを知ることができるから読書というのはやめられませんね。しかも手掛けたのは関西では大人気の番組『探偵ナイトスクープ』の放送作家である百田尚樹さん。他にも『永遠の0』や『錨を上げよ』など話題作を書かれている方です。

今作では石油界において大きな後れをとっていた日本がその地位をあげるための戦いを描いています。戦後石油を分けてもらうためGHQから様々な条件が課せられていたことに反旗を翻し、困難なハードルを次々にこなしていったのが田岡鐵造率いる田岡商店です。やがてその働きぶりを認められサムライとして認められた彼ら。しかし世界とたたかうにはまだまだ越えるべきハードルは残っており、それは想像を絶するような戦いだったのです。タンカー(日昇丸)を手にしイニシアチブを取れるようになった矢先、イギリスとの戦いが勃発。イランとの石油のやり取りにおいてその航路を妨害されるという中、決死の航海にうって出る鐵造。日本とイランの関係や世界との関係がどうなっていくのかがみものです。あらすじをざっくり書いてしまうととても簡単ではあるのですが、この作品は一つひとつの交渉事が手に汗握るものとして描かれています。妥協のない描写に圧倒されることでしょう。そして力が入るのですが、だからといって読みづらさを感じるわけではないのが、読み物としての秀逸さをしめしていますね。

ちなみにここで出てくる出来事は史実です。それだけにリアリティが半端ないですし、普段何気なくガソリンを入れていた私もありがたみを感じるようになりましたよ。

レビュー

<読みやすさ>

百田尚樹さんの作品はどれも読みやすいですね。決して文体が軽いわけでもありませんし、テーマはむしろ重い事が多いのに不思議です。これが放送作家さんの力なんでしょうか。どんなにボリュームのある作品でも負荷を感じたことがほとんどないのです。見せ方、読ませ方を知っている作家さんだと太鼓判を押せます。

<面 白 さ>

一人の英雄を見事に描き切っておりとてもかっこよく感じました。テンポもリズムもよく、結末まで飽きを感じさせない面白さ。実話を基にしながらも、エンターテイメントとしての脚色も素晴らしく、完成された作品として誰にでも好まれると思いました。願わくば他の歴史上の人物をもっともっと手掛けて欲しかったのですが、作家活動は停止?引退?

<上 手 さ>

百田作品はどれも上手いと思っていますが、この作品は際立っています。きっと大河ドラマの脚本だってかけるんでしょうね。さして興味があったわけではないのですが、モデルとなった出光興産の出光佐三にとても注目してしまい、そしてその一挙手一投足に震えさせられました。戦争でもないのに、戦いのシーンを熱く表現しているのは鳥肌ものでした。

<世 界 観>

とてもスケールの大きい物語です。スケールの大きい人物であると言うべきでしょうか。とにかくその視野が広く、戦ったステージが大きく、考え方が深いのです。それを余すところなく映し描いた百田氏の勝利でしょう。世界を相手に商談を進める姿は、ビジネスマンにも大きな勇気を与えたのではないでしょうか。

<オススメ度>

巷では何かと物議を醸す発言をしているイメージもありますが、小説においてはとても安定していて、自身の文章にも気を使っているように思えます。万民受けする作品だと思いますし、もちろん一つの読み物としてのクオリティはとても高いです。多くの方に読んでいただき、我々の知らないところで、様々な熱き戦いが繰り広げられていることを知ってもらいたいです。