【『満月の道 ~流転の海 第七部~』宮本輝】を褒める

2021年11月22日

読了後の感想(2分で読めるよ)

『流転の海』シリーズも7作目まで来ました。宮本輝さんのインタビューなどを追っかけてみると、当初は三部作構想、そしてその次が六部作構想、そして九部作となったことを考えると、いよいよ最終フェーズに入ったと見るべきでしょうか。回を重ねるごとに熊吾の神通力が効かなくなり、時代の波や人のうつろいに巻き込まれていく様が強く見られるようになってきています。自叙伝的小説でもあるので、宮本輝さんが成長してからの物語になってきていることもあって、父に対するなんともいえない感情も渦巻いているのか、熊吾に対する辛辣な表現も目立つようになってきました。と同時に妻・房江がかなり発言力を増してきており、これまでの夫婦関係が少しずつ変化していってるのも見逃せないですね。もともと経験豊かで逆境を耐え抜いてきた房江ですから、頼りないようなキャラクターでありつつも芯はしっかりしているのです。これに反骨精神が加わり、自分を解き放とうとしている姿は、昭和の古き時代を打ち破る力強さが重なってきます。

一方で熊吾は熊吾でそんな抗いようのない環境の変化に対して、苛立ちながらも受け入れ対応していく姿も見せており、彼自身の遅まきながらの変化を感じ取ることもできます。息子が生まれてからの使命感、自分の人生の決着のつけ方などを俯瞰的に見つめなおし、年老いてなお成長を続けようとする気迫のようなものも感じ取ることができました。

加えて多数の登場人物たちもそれぞれに人生があり、その変遷はとても面白いものになってきました。世界はますます広がりを見せ、壮大なストーリーとはわかっていましたが、本当に舌を巻くほどです。これは後の簡易レビューにもつながることなのですが、力のある作家さんにしかできないことだと思います。辻村深月さんや柴田よしきさんは、別の作品として世界線を合わせてきていますが、宮本輝さんのこのシリーズは本当に同じ世界線で展開されているのです。少し外れる話かもしれませんが、マンガの『HUNTER×HUNTER』において富樫先生が行っているものと共通した世界を感じています。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★★★

世 界 観 ★★★★★★

オススメ度 ★★★★★

満月の道 ひょうちゃん作目次

*勘のいい人にとってはこの程度でもネタバレになるかもしれません。

もし不安であればこの先は見ないでください。

 

第一章 ハゴロモ事業の好調ぶり

第二章 房江のペン習字修了

第三章 博美との再会 神田三郎という男

第四章 関の死と房江の病気

第五章 博美への手切れ金

第六章 城崎での房江と麻衣子の交流

第七章 玉木の背任行為