【グラスワンダー】を褒める

<栄光と挫折、そして復活のグランプリホース・グラスワンダー>

馬紹介

平成7年2月18日生 父:シルヴァーホーク 母:アメリフローラ

マルガイ(外国産馬)のためクラシックレースに出られなかったものの、人気投票から選出されるグランプリ(有馬記念・宝塚記念)を3連覇することで、その強さを知らしめたグラスワンダー。栗毛の馬体が美しい弾丸のような馬でした。

戦績

15戦9勝(G1 4勝 朝日杯 有馬記念 宝塚記念 有馬記念)

1997年度 最優秀3歳牡馬

活躍

グラスワンダーの強さはその知名度以上に多くの人の脳裏に残っていることでしょう。前述のように外国産馬がクラシックレースや多くの大レースを走ることができなかった時代、グラスワンダーは出場するレースで大きなインパクトを残してきました。そもそもデビューから4連勝で朝日杯という3歳唯一のG1を獲得した経緯が圧倒的です。デビューから3戦全勝はもちろんのこと、そこでつけた2着の差は合計14馬身。初の重賞獲得となった朝日杯の前哨戦・京成杯3歳Sでは6馬身差というあり得ない大勝ちをおさめたのでした。朝日杯もメンバーがどうかと言われそうですが、後にG1を勝つことになるマイネルラヴやアグネスワールドを子供扱いしたのですからその能力の高さは誰の目にも明らかでした。こうしてマルガイというハンデを感じさせないほど、栄光に包まれた3歳を送ったグラスワンダー・4歳になって目標となるのはマルガイダービーとも呼ばれるNHKマイルCでした。

けれどもグラスワンダーの栄光はこの後、挫折と変わります。レース後骨折が判明、そしてNHKマイルを含む春のレースを全休。その間に台頭してきたのがNHKマイルCを制し、後にジャパンカップ制覇、凱旋門賞2着という輝かしい実績を残すエルコンドルパサーでした。秋に復帰するも毎日王冠はサイレンススズカとエルコンドルパサーにはるか遅れをとり、格下相手のアルゼンチン共和国杯でも6着と惨敗。こうなると囁かれるのが「グラスワンダーはただの早熟馬だ」という声。わずかな期間でグラスワンダーの能力は否定されることになってしまったのです。挫折を味わい終わった馬のように扱われるグラスワンダー。このような経緯で参戦したのは暮れの有馬記念。女傑エアグルーヴ、二冠馬セイウンスカイ、天皇賞馬メジロブライト、オフサイドトラップ、他にも5冠牝馬メジロドーベルに昨年の覇者シルクジャスティスなどが参戦。なんとか4番人気に推されたものの、扱いは完全に中穴。私はメジロブライトを軸にレースを考えていました。しかしグラスワンダーは息を吹き返します。昨年の強さを取り戻したかのように直線では余裕すら感じるレース運びで完勝。オグリキャップ、トウカイテイオーらが4番人気から復活を遂げたのと全く同じ復活劇を演じたのでした。

こうして再び主役の座を取り戻したグラスワンダーでしたが、最強の座をモノにするためにはもう一頭、倒さなければならないスーパーホースがいたのです。それがスペシャルウィーク。武豊とともにスターダムを駆け上がり、日本ダービーや天皇賞・春を制したこの馬と復活したグランプリホースのどちらが強いのか、人々の注目を浴びることになります。そして迎えた対決の時、もう一つのグランプリである宝塚記念にて雌雄を決する時がやってきました。

ピックアップレース

1999年7月11日 宝塚記念

前哨戦の安田記念を鼻差2着で苦杯をなめたこともあり、一番人気はスペシャルウィーク。そして世間の空気もどちらかといえば、このスターに勝たせたいという雰囲気が漂っていたように思います。

 

さあ先頭はスペシャル 豊の右ムチが飛んだ グラスワンダー もう言葉は要らないのか

2頭の一騎打ちか グラスワンダーかわした グラスワンダーかわした

スペシャルウィーク負けるのか グラスワンダー先頭だ

2頭が他を離した 離した 離した グラスワンダーが先頭だ

的場 的場だ 的場だ やっぱり怖かった的場

グラスワンダー勝った~~~! そして2着はスペシャル

やっぱり強いのは強い 強いのは強かったが 勝ったのはグラスワンダーのほうだ!!!

 

最後は3馬身の差をつける想像以上の圧倒的勝利。実況では2頭の争いと伝えているものの

映像を見ればグラスワンダーがちぎっている様子がはっきりとわかります。

誰の目にもグラスワンダーが強かったと印象付けられた事でしょう。

個人的感想

その後、スペシャルウィークはジャパンカップにおいて凱旋門賞にてエルコンドルパサーを破ったモンジューを倒し、じゃんけんのような理屈になりそうですが、再び現役最強馬の称号を得ます。それをもってグラスワンダーに雪辱を期し、再びグランプリ有馬記念にて相まみえます。結果はまたもやグラスワンダーの勝利。しかしこの勝利は薄氷ものでした。ラジオの実況ではスペシャルウィークが差したと伝え武豊のウイニングランがなされたほどの僅差。そのため、このレースにおいては勝敗に関わらず、それこそ宝塚記念のときの実況のように2頭どちらも強かったということになりました。が、一つだけ。差し切られたと見えたこのレースにおいて、グラスワンダーは再度差し返したのです。これがどんなに大変なことか、そしてあの激闘の中でそれがなされたというのは驚くべきことです。これもまたグラスワンダーが驚きの馬として記憶に残る要因の一つだったのではないでしょうか。

残念ながら次の年のグラスワンダーは低迷してしまい、最後は奇しくもグランプリ4連覇を狙った宝塚記念にて故障。引退となってしまいます。けれどもグランプリの中心には常にグラスワンダーが居たという意味ではこの2年間のグランプリは間違いなくグラスワンダーのものでした。同じ時代にサイレンススズカ、エルコンドルパサー、スペシャルウィークという世界に通用する馬たちと一緒に戦ったというのもグラスワンダーの強さを改めて証明することになったのでした。