【『花の回廊 ~流転の海 第五部~ 』宮本輝】を褒める

読了後の感想(2分で読めるよ)

『流転の海シリーズ』も今回で5作目、ここからは再読ではなく初読みとなります。このように通して連続で読める分、再読部に関しても今回のほうがよく理解して読めている気がします、いや実際そうです。そして実はこのたび『流転の海読本』も購入し、読書の助けとさせていただいています。なんせ全9巻における登場人物は1,500人を越える超大作です。現在スマホのメモ機能を駆使し、付箋をフル活用しながら読んではいますが、メモする時間や調べ直す時間が結構かかる上に、読書のリズムが乱されてしまうため、少し邪道なのかもしれませんが、読本片手に頑張ることにしました。実はこの5作目はこれまでの4作との絡みが少ない上に、いささかややこしい人間が多く登場するため苦戦しちゃいました。またここから初読みとなることもあり、思い出して懐かしむシーンがなく、気を抜けない読書となったことも、やや読みづらさを感じてしまいました。これ、再読しないでここから読んでいたらまず間違いなく挫折していたでしょうね。

さてさて、挫折といえば松坂家ですよ。富山での生活にどうしても馴染めなかった熊吾と房江。これまで前向きな移転が多かったように思いますが、今回はいささか後ろ向きな形で富山の生活を後にします。そしてもう一度大阪での再興を図る松坂熊吾。前作から少しずつその勢いや運勢に翳りが見られる熊吾ですが、新しいことへ取り組む突進力、推進力は若い頃と変わらずとてもアクティブでなおかつ房江も認める先見性を持っています。今回も独特の嗅覚でビジネスの匂いを嗅ぎつけのしあがっていきます。一方で、前作より以上に暗い影のようなものは、より色濃くなっていき不穏な空気がこの第五部全体を通して漂っています。それを象徴するかのごとく、蘭月ビルの人々との決して明るくない付き合いが始まるのでした。私が人間関係を把握しづらかったのがまさにこの蘭月ビルに住む人たちであり、房江もこのビルを好きになれないでいます。そしてそういった雰囲気などものともしないはずの熊吾でさえ、やはり最後はこのビルと距離を置こうとしています。そんな調子ですから物語に対する関心は深まっているにもかかわらず、この第5部は近寄りがたいような、知ってはいけないようなそんな怪しさを醸し出していましたね。

前作の最後は事故や裏切りといったマイナスの事象が多かったのですが、今作の最後はそれに輪をかけて酷いものでした。松坂熊吾の波瀾万丈の人生は、ますますうねりを見せて荒れていく様相を見せています。(この物語の閉じ方が憎らしいほど上手い、すごいです、宮本先生)

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★★★

世 界 観 ★★★★★

オススメ度 ★★★★★

花の回廊 ひょうちゃん作目次

*勘のいい人にとってはこの程度でもネタバレになるかもしれません。

もし不安であればこの先は見ないでください。

 

第一章 朝鮮と韓国

第二章 蘭月ビルの人々

第三章 再起を期す熊吾

第四章 房江と島津育代(千代鶴)

第五章 蘭月ビルの人々との交流

第六章 房江の内助の功

第七章 津久田の凶行