【2021年読書ランキング】で褒める

2021年読書ランキング

  1. 『野の春 ~流転の海 第九部~』宮本輝
  2. 『雪のなまえ』村山由佳
  3. 『月下のサクラ』柚月裕子
  4. 『蝶の眠る場所』水野梓
  5. 『自転しながら公転する』山本文緒
  6. 『看守の流儀』城山真一
  7. 『心淋し川』西條奈加
  8. 『木曜日にはココアを』青山美智子
  9. 『透明な螺旋』東野圭吾
  10. 『ミュゲ書房』伊藤調
  11. 『水を縫う』寺地はるな
  12. 『白鳥とコウモリ』東野圭吾
  13. 『桜のような僕の恋人』宇山佳佑
  14. 『あと少し、もう少し』瀬尾まいこ
  15. 『犬がいた季節』伊吹有喜

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「野の春 ~流転の海 第九部~」宮本輝

宮本輝さんのライフワーク『流転の海シリーズ』。その完結作となる9作目が今年のベスト本。松坂熊吾という稀代の主人公の人生は時代に翻弄され、仕事においても家族との関係においても大きく変化を余儀なくされる。昭和という時代を象徴するかの如く、熊吾の凋落に昭和の終焉をみることができる。物語の綴じ方に宮本輝さんの並々ならぬ覚悟のようなものがあらわれていた。

②「雪のなまえ」村山由佳

メンタル不全が叫ばれる現在のストレス社会。そんな中で、社会から距離を置いたものたちに対して世の中はまだまだ厳しい。けれども「つらいことから逃げちゃいけないの?」という問いかけは心のど真ん中を貫いた。決して甘えを助長する内容ではなく、再生に希望を見る前向きな小説であることを忘れてはいけない。

③「月下のサクラ」柚月裕子

ノンストップアクションの決定版。ラストの怒涛の展開はここ10年で最も興奮させられるものだった。登場人物もとても魅力的で前作からの成長も見られ微笑ましい。取り巻く仲間たちも一人ひとりそれぞれ作品ができそうなくらい個性的だった。事件の動機が弱い気がしたが、それをものともせず一気に駆け抜ける作品の底力を感じた。このままシリーズが長く続くことを望みたい。

④「蝶の眠る場所」水野梓

冤罪を扱った小説なのだが、複数の事件を時代を越えて取り上げているところが素晴らしい。真相も思いもつかない程、複雑に絡まった奥の奥に秘められており、圧倒された。これが作者にとってデビュー作だというから驚きだ。難解な部分はあったものの熱量は上位三作に決して劣らないものだった。

⑤「自転しながら公転する」山本文緒

2000年頃の大活躍していた時の山本文緒さんを彷彿とさせる会心の一作。女性の揺れ動く恋心や将来に対する不安、仕事とプライベートの両立など、共感できるポイントがてんこもり。長いスランプを脱して華麗に復活を遂げたと思った矢先の突然の訃報。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

⑥「看守の流儀」城山真一

連作短編形式でとても粋な計らいと解決を導き出す主人公の手腕が小気味よい。現代版大岡裁きとでも言うべきか。一方で物語の連なり・繋がりもとても計算されており感嘆させられる。しかし何よりこの物語を全部読み通すことで明らかになっていく真実に読者は驚嘆させられるだろう。良作中の良作、佳作中の佳作。

⑦「心淋し川」西條奈加

本年の芥川賞受賞作品。今年、多くのヒット作品に見られた連作短編形式をとり、下町の情緒あふれる描写とともに、味のある話が続いていく。『看守の流儀』同様、物語を読み進めることで明らかになる背景に驚かされるが、主題は人間の内面の美しさや温かさを映し出すもので、時代小説の良さを満喫することができた。

⑧「木曜日にはココアを」青山美智子

『お探し物は図書室まで』で話題をさらった青山美智子さんだが、より質の高さを感じたのはこちらの作品。連作短編は数珠繋ぎのように登場人物にバトンを渡していき、各章毎にカラーをテーマにした物語を円環を思わせるように配置。その一つひとつが文字通り珠玉で心にささる。極めつけは1章と最終章の繋がりで、心が揺さぶられるストレートな感情に脱帽。

⑨「透明な螺旋」東野圭吾

ガリレオシリーズの最新作。シリーズを追うごとに湯川教授の身辺があきらかになっていくのは、加賀恭一郎シリーズに共通するところか。事件は簡単に推理できえ真相を見破ったように思えたが・・・甘かった。所詮は東野圭吾さんの手のうちで弄ばれていただけだった。ラスト50PのツイストとテーマとなるDNAからタイトルが生まれたように思える。

⑩「ミュゲ書房」伊藤調

好感の持てるライトノベル。読後は心地よく本年一番の清涼感を味わえた。出版業界の裏側がよくわかり、キャラクターの心情描写がとても近しく親近感がわく。ある意味、話の筋は読めるのかもしれないが、その筋書き通りに話が進むことの気持ちよさを教えてくれる。それが読者の満足感に繋がるのではないのだろうか。

⑪「水を縫う」寺地はるな

ジェンダーに対する見方などを示唆してくれるとともに、家族の在り方などについても問題提起がなされたかのような中身の濃い作品。しかしながらそういった側面以上に、登場人物たちの成長がとても丁寧に描かれていることが高評価につながった。誰もが誰かの子供であるということを再認識させられる。タイトルにも含蓄がある。

⑫「白鳥とコウモリ」東野圭吾

善良な弁護士が殺された事件は、ある男の自供で解決したはずだった・・・。と相変わらず掴みは一級品。しかしながら物語は急展開を見せ、過去の事件と照らし合わせて予想だにしなかった真相へと辿りつくのだが、この展開が本当に上手い。そして東野さんと言ったら“切なさ”がテイスト。現代版『罪と罰』と言われるのも納得。

⑬「桜のような僕の恋人」宇山佳佑

ライトな青春小説でありながら、号泣必至の感動作品。正直、展開は早々に読めてしまい、わざとらしさを感じないでもなかったが、あまりのピュアさに途中から気にならなくなった。そしてきたるべき結末を迎えたとき主人公の心に残ってしまうものは悲しさだけではなかったことがとても辛く切ない。ここまでの展開はさすがによめなかった。

⑭「あと少し、もう少し」瀬尾まいこ

中学の駅伝を描いた気持ちの良い青春小説。とても読みやすかったし、この手の作品は年に一度は読んでおきたいと思える。連作短編の構成をうまくつかい、章ごとにタスキを繋ぐがごとく、登場人物たちの作品が繋がれていく。このそれぞれのエピソードが秀逸で、駅伝というテーマを用いたことが大成功だと感じた。東京オリンピック開催もあって合わせてスポーツの良さを実感。

⑮「犬がいた季節」伊吹有喜

昭和から平成、平成から令和へと時代を越えた連作短編。この構成がとても上手く、時代の映し出しがノスタルジーを感じさせること間違いなし。そしてそれぞれの成長とともに物語は進んでいき、現在進行形の小説であることを確認できる。ノストラダムスの大予言に恐れおののいていたころが懐かしい。単行本には装丁に仕掛けがあり、これも泣かせる。