【『秘密』東野圭吾】を薦める

読書のススメ(5分で読めるよ)






今や“東野圭吾”の名前を知らない人は居ないでしょう。近年は、作品の多くが映像化され、どれも大ヒット、高視聴率を叩き出す人気作家としてその名を馳せています。私が読書ランキングを作るようになったのも、“宮部みゆき”さんと東野さんのお陰と言っても過言ではありません。初期のランキングにはお二人の名前が頻繁に出てきます。加えて東野作品は私がランキングをつけて21年になるのですが、そのうち16年22作品というとてつもない数のタイトルを長きにわたってランキングに送り続けてくれています。音楽で言うと“B’z”“Mr.Children”のような存在ですね。

ランキング入りしていない作品にも名作は数知れず、駄作がほとんどないのも東野作品の特徴です。けれども、私が一番褒めたいのは東野作品の持つ“切なさ”なのです。もともとミステリ作家として頭角をあらわした東野さんですが、初期の作品で驚かされたのはトリックの真相がどれも哀しく切ない背景に彩られていたことでした。当時、“死ぬ間際のあり得ないダイイングメッセージを解き明かす”という展開が、私にとってのミステリ小説でした。綾辻先生、有栖川先生の作品を夢中で読んでいた私にとって、東野作品は革新的で衝撃的なものばかりでした。殺人犯にまで感情移入させられるその切ない真相は、読後の余韻を心地よくさせてくれました。その手法は今に至っても色褪せることなく私たちを楽しませてくれています。だからこそ多くのドラマや映画に好んで使われるのでしょう。もはや“切なさの魔術師”としか言いようがありませんね。

そしてそんな切なさの代表作としてあげたいのが、私の2001年ランキングにて1位を獲得した『秘密』です。設定・展開・心理描写・構成・結末と全てが完璧で奇跡のような作品でした。文体はコミカルなだけに、余計に切なさが募る作品でした。ラストのワンシーンを目にしたとき、「小説を読んだだけでこんなに泣くのか」というくらい泣きました。実は私は5年近く読書スランプに陥ったことがあり、特に小説やミステリなど全く面白いと思えなくなっていたことがあるのです。幸い1999年に宮部みゆきさんの小説に出会って、2000年のランキングにつながるのですが、それでも心から面白いと思ったり感動するという感覚は、いま振り返ると本調子ではなかったように思うのです。すでに東野作品もデビュー作から片っ端から読破し『魔球』や『変身』などとても面白く読んだものの、読書自体の苦手感が払拭されたわけではありませんでした。それを一気に取り払ってくれた作品が本当にこの『秘密』なのです。後にこの年2位にあげることになる東野さんの『宿命』と二つ合わせて私の完全復活の狼煙をあげてくれた作品です。以降、今日に至るまで『秘密』に出会えた感激は忘れることができません。

後年、広末涼子さん主演で映画化され今ほどはメジャーでなかったものの、スマッシュヒットしたのを覚えています。たしか東野圭吾さん教師役かなんかで出演されていたような…。当時、私は職場のメンバー全員にこの作品をすすめる伝道師でした。そして迷惑がられるどころか、多くが東野圭吾ファンになってくれたことに深い感慨を覚えるのです。この度、ブログを立ち上げて、今度は私自身が『秘密』の伝道師になれればと思い、今回記事にしおススメさせていただきました。

レビュー

<読みやすさ>

読書スランプにあった私ですら“読みやすい”と思えた作品です。活字苦手な方でも、ミステリ苦手な方でも、誰にでも読みやすいと言える軽い文体が特徴的です。

<面 白 さ>

面白いという形容詞自体がふさわしくないというのは他の作品でも申しあげているところですが、この小説がとても大切になるはずです。自身の宝物になる可能性のある内容がここにあります。

<上 手 さ>

おススメ文中で“切なさの魔術師”と評したように、この作品は切なさという観点においては傑出していると言えるでしょう。駅のホームでラストを迎えた私は、人目を憚らず号泣してしまいました。

<世 界 観>

ある種、SF的な突飛な設定があったことを忘れるくらい作品の世界に没頭できます。このブログ記事を書くまでその奇妙な設定を忘れているくらいです。そして親子関係を見事に映し出しており文句ありません。

<オススメ度>

あまり本を読まない人に対してはトルストイの『復活』や天童荒太さんの『永遠の仔』よりもこの作品のほうをおススメします。きっと読書そのものを好きになってくれることでしょう。