【『ビリーミリガンと23の棺』ダニエル・キイス】を薦める

読書のススメ(5分で読めるよ)

皆さんはダニエル・キイスという作家さんをご存じでしょうか。『アルジャーノンに花束を』の作者だと言えばピンとくるかもしれませんね。1980年代から90年代にかけてかなり話題をさらった作家さんで、この作品以外にも多くの話題作を世に出した方でもあります。今回オススメしたいのはビリーミリガンというある男性のノンフィクション作品です。

このビリーミリガンはある日突然、自分の身に覚えのない事件により検挙され投獄されてしまいます。その事件とは1977年にオハイオ州で起きた3人の女性が誘拐され暴行を受けてしまうというものでした。温厚で内向的だったビリーミリガンはその事件を聞いて驚き震えるとともに、なぜ自分がそのような恐ろしい事件の容疑者として捕まってしまったのかわかりませんでした。当然事件の関与を否定するビリーミリガンでしたが、取り調べの中で急にその事件について罪を認める発言をするのです。そのとき彼の顔はまるで別人のように変わり、声も話し方も粗暴でそれまでのビリーミリガンと同じ人物であるとは思えない程の変貌だったそうです。そう、彼はなんと多重人格者だったのです。しかも24人もの人格が内在するという考えられない状態だったのです。

結局この事件ではビリーミリガンの精神障害が認められ、無罪放免となるのですが、この判決に対して全米に議論が巻き起こります。作者ダニエル・キイスは実際にビリーミリガンに会って話し、その中で彼の精神世界で何が起きているかを知ることになります。そしてそのメカニズムをわかりやすく知らしめたのが、『24人のビリーミリガン』『ビリーミリガンと23の棺』なのです。ビリーミリガンの多重人格はにわかには信じることができないと思いますが、この作品(当時単行本で読んでいました)ではそれぞれの人格が書いた文字や絵画、様々な創作物が掲載されており、それらはとても一人の人間が作りだしたとは思えないものでした。また人格の違いによって、話し方や性格はもちろんのこと、違う言語やなまり、知識や仕草などとても説明がつかないような事象が多く起きていたことが示されています。

さて、本日は私のオススメ作品の紹介でしたね。このまま“多重人格”というものが真実かどうかを議論していてもおそらく決着はつきません。私はその点においてオススメしているわけではないのです。正直言うと、本当にオススメしたいのは『ビリーミリガンと23の棺』のほうです。『24人のビリーミリガン』は彼が多重人格者であることを証明するような作品になっているのに対して、『ビリーミリガンと23の棺』は無罪判決が出た後、世間の厳しい批判にさらされ、また無罪になったからと言って多重人格がなくなったわけでもない中で、彼が人生に対して向き合い、前を向いて歩いていく再生の物語なのです。一時は病院で治療を受けていたものの、多量の薬を投与され俳人寸前にまでなったビリーミリガン。そんな彼をダニエル・キイスをはじめ多くの支援者が彼の希望の光をつなげ、一人の人間として再び歩み始めるまでの経緯は感動的であり、その姿に感動させられたのです。真実はわかりませんが、そこにあるそれぞれの人間ドラマは何より美しいものでした。「23の棺」とありますから他の23の人格が消えたことを想像させますが、実際はそう単純なものでもありませんでした。そしてこの作品以降もビリーミリガンの人生は続いており、作品とは違う現実の厳しさも色々あったようです。ですので必ずしもハッピーな展開でまとめられているわけではありません。そこがノンフィクションの良いところでもあり、目が離せないところでもあるのでしょう。

私のオススメしたいところは、ビリーミリガンの勇気ある決断、たゆまぬ努力、そして寄り添うダニエル・キイスの温かい尽力ということが言えますね。ちなみにダニエル・キイスはこの前にも『5番目のサリー』という、同じく多重人格を扱った作品を書いています。

 

レビュー

<読みやすさ>

テーマが重いだけに正直読みやすいとは申せません。読むのが辛いという方もおられるでしょう。また多重人格について明らかになっていない部分も多く信じがたいという方もおられるでしょう。また興味深いものの病気の理解など時間をかける部分もあるので、ここは読みにくいと紹介しておきます。

<面 白 さ>

興味深いことは間違いないです。私は元々多重人格についてほとんど知識が無かったため、色々な見方を教えられた気がします。そして単に多重人格のテーマを越え、人間ビリーミリガンの決意や、作者ダニエル・キイスをはじめとする支援者の熱い気持ちにうたれました。

<上 手 さ>

多重人格の説明や描写はとても素晴らしく他にマネが出来ないのではないかと思うくらいです。そしておぼろげながら多重人格のイメージも掴む事ができました。ただ作品として上手さを感じているのとは少し違うのかもしれません。こちらもノンフィクションゆえ、変にドラマチックにしあげていないのは上手さとは違い好感でした。

<世 界 観>

深層心理をテーマとしていまだ謎の多い多重人格の世界を見事に繰り広げたため大きな世界観を持っているととらえることができます。またテーマだけでなく前述のようにノンフィクションのヒューマンドラマとしてとても大きさを感じました。

<オススメ度>

正直言うと読み手を選ぶ作品ではあります。万民受けする作品とも言えないのかもしれません。私個人としては考え方の分岐点となり、人事という仕事柄、障害者雇用やLGBTQの理解の礎にもなったような気がします。オススメできる方とオススメできない方にわかれると思います。