【2002年読書ランキング】で褒める

2002年読書ランキング

  1. 『RIKO ~女神の永遠~』柴田よしき
  2. 『死にぞこないの青』乙一
  3. 『白夜行』東野圭吾
  4. 『聖母の深き淵』柴田よしき
  5. 『暗いところで待ち合わせ』乙一
  6. 『翼 ~cry for the moon~』村山由佳
  7. 『ガキの自叙伝』稲盛和夫
  8. 『群青の夜の羽毛布』山本文緒
  9. 『冤罪者』折原一
  10. 『バグ』松岡圭祐
  11. 『神様のボート』江國香織
  12. 『近藤勇白書』池波正太郎
  13. 『屍鬼』小野不由美
  14. 『六番目の小夜子』恩田陸
  15. 『霧の橋』乙川優三郎

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「RIKO ~女神の永遠~」柴田よしき

柴田よしきさんの代表作シリーズであり、他のシリーズ作品とも絡み合う根幹的な役割を担うRIKO。その第1作目は村上緑子(RIKO)の魅力が余すところなく描かれている。スピード感抜群の展開とハードボイルドな文体。そして甘く切ない官能描写。改行と余白を使った心情描写の巧みさは随一。

②「死にぞこないの青」乙一

当時の勢いはとどまることを知らなかった乙一氏の“いじめ”問題を直視した問題作。主人公が教室にはびこる“いじめ”に対して勇気をもって素晴らしい行動をとる。それは悪質で陰湿な仕打ちに対する勝利であった。「仕方がなかった」「でもやっちゃいけないことですよね」の下りにとても力を感じた。

③「白夜行」東野圭吾

あの馳星周をして「ノワールの最高傑作」と嫉妬せしめた超大作。東野作品の中でも今なお高い人気を誇っている。謎の女性の周辺に起きる怪事件、その傍らにある少年の姿・・・。ダークな雰囲気と驚愕の結末に物語の持つ圧倒的なエネルギーを感じずにいられない。

④「聖母の深き淵」柴田よしき

RIKOシリーズの第二弾。前作に勝るとも劣らない衝撃的な作品に仕上がっている。相変わらずRIKOの生き様は壮絶で美しく、そして孤独で哀しい。母となって頑固なまでの信念は柔らかさを備え、卑屈な考え方は発展的で前向きに変わっている。事件を追うとともにRIKOの成長を楽しめる。

⑤「暗いところで待ち合わせ」乙一

ホラー作家として売り出した乙一氏だったので装丁の恐ろしさで内容を誤解されるがハートウォーミングな作品である。このジャンルでも超一流で特に中短編においては無類の能力を見せる。今作では無駄な言葉を一切排除し、必要最小限で最高のクオリティを生み出した。盲目の少女と侵入者の心の交流が琴線を揺さぶる名作。

⑥「翼 ~cry for the moon~」村山由佳

恋愛小説をみずみずしく描く村山由佳さんの快作。主人公の成長を壮大に描いたヒューマンドラマ。まっすぐで飾らない文体も好感が持てる。主人公の背負った悲しい過去や運命を広大なアリゾナの地が癒やしてくれる。切ない思いと同時に温かい勇気が育まれるのを感じる。

⑦「ガキの自叙伝」稲盛和夫

今や一流の経営者の代名詞でもある稲盛和夫氏。京セラの創始者でありauの全身KDDI名誉会長、さらにはJALの再生を請け負ったカリスマである。しかしその成功の生涯の陰でこれ以上ない苦労や挫折があった。仕事に対する情熱や信念は、ちょっとやそっとじゃ折れることのない堅固なものであると知る事ができる。

⑧「群青の夜の羽毛布」山本文緒

ライトな恋愛小説を得意とし、ついには直木賞作家までのぼりつめた山本文緒さん。けれども長くメンタル疾患を抱えていたこともあり、その鬱屈した心の闇が作品に投影された。下手はホラーよりよっぽど恐怖だ。人間の心がいかに繊細で歪んでしまいやすいかの証明にもなっている。また教育、環境の大切さがわかり、欠如は悲劇だ。

⑨「冤罪者」折原一

叙述トリックの名手・折原一さんの最高傑作。「~者」三部作の第1作目であり、シリーズ全体の一作としてもまた違った面白さが隠されている。真相は、情報が入れば入るほど闇に包まれ、視点が次々と切り替わるため、一体誰の心の動きかわからなくなる。騙されることが爽快にも思えるから不思議。

⑩「バグ」松岡圭祐

千里眼シリーズで有名な松岡圭祐さんの一風変わった物語。架空のゲームソフトを題材に社会現象やとりまく連続少年自殺事件の真相を追う。マルチな視点で真相に迫る手法はそつなく楽しめ、別の人間性が見えてくるのでとても面白い。内容の濃さもあり、作品のエンタメ性はかなり高い。

⑪「神様のボート」江國香織

ほのぼのと進む展開の中に潜む“狂気”。想いの強さは時として人を歪め傷つけてしまう。気持ちに焦点をあてるのは江國さんの真骨頂。母の強い愛情は偏愛であり毒親そのもの。娘の苦悩は計り知れないが、彼女の生き方は健気で強い。ねじれた関係をただすのではなく、受け止めきるというスタンスが凄いと思える。

⑫「近藤勇白書」池波正太郎

新撰組を扱った書物は多いが、一作品で隊士たちの人となりを掴むには今作が適している。近藤勇のみならず、沖田・永倉・原田らの活躍も丁寧に描かれており、言動からそれぞれの個性を理解できる。近藤の長所だけでなく、短所も浮き彫りにすることで人間的な魅力を増幅するのに成功している。

⑬「屍鬼」小野不由美

十二国記が有名な著者だが、人間の業や性を真正面から捉えたこの怪奇作品も話題を呼んだ。SF要素も含んでいる。小さな村で連続して起きる不審死。殺人か、疫病か、それとも・・・。被害者と加害者の双方の苦しみを描き、ただのパニック小説で終わらない。人物は多く煩雑だが、重厚なストーリーは圧倒的だった。

⑭「六番目の小夜子」恩田陸

恩田陸さんが当時新進気鋭の作家として鮮烈デビューを放ったのはこの作品。「文学」「文章」が生み出す凍り付くような怖さを体感させられた。謎の転校生・津村沙世子と“六番目のサヨコ”はどう絡むのか。真相が明らかになるまでの焦燥感は半端ない。様々な仕掛けで読者をマインドコントロールしてくる。

⑮「霧の橋」乙川優三郎

時代小説の名手・乙川優三郎さんが感情の機微を情緒豊かに描ききった傑作。武士の身分を捨て商人となった男と、武士にまた戻ってしまうのではないかと心配する妻との心のすれ違いが絶妙に映し出される。この時代ならではの逆境に対して出す決断と行動が実に感動的。