【2012年読書ランキング】で褒める

2021年10月11日

2012年読書ランキング

  1. 『海賊とよばれた男』百田尚樹
  2. 『ソロモンの偽証』宮部みゆき
  3. 『楽園のカンヴァス』原田マハ
  4. 『64』横山秀夫
  5. 『百年法』山田宗樹
  6. 『猫背の虎 動乱始末』真保裕一
  7. 『ラバーソウル』井上夢人
  8. 『偉大なるしゅららぼん』万城目学
  9. 『無花果の森』小池真理子
  10. 『開かせていただき光栄です』皆川博子
  11. 『蜩の記』葉室麟
  12. 『舟を編む』三浦しをん
  13. 『絶望の国の幸福な若者たち』古市憲寿
  14. 『本日は大安なり』辻村深月
  15. 『禁断の魔術』東野圭吾

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「海賊とよばれた男」百田尚樹

尊敬できる経営者がまた一人加わった。間違いなくこの年最高の作品であり日本人ならぜひ読んでおきたい。出光佐産氏をモデルに石油業界のみならず日本を背負った男の戦いに胸震わされる。“偉大な人物”とはこういう生き様を見せた者にふさわしい。次々と英雄を描き出す百田氏の傑作。

②「ソロモンの偽証」宮部みゆき

構想10年、宮部みゆきさん久しぶりの超大作は「模倣犯」に勝るとも劣らない圧倒的なリーダビリティ。恐るべき展開力で読者を魅了する。言葉の一つ一つ、行動の一つ一つに全く無駄がなく、作品にブレがない。設定が「中学生」というのは高校生で良かった気がするが、その他は全て説得力のある物語だった。

③「楽園のカンヴァス」原田マハ

絵画をめぐるサスペンスでスリリングなストーリーが素晴らしい。主人公が取り巻く環境を打破し敢然と戦う姿はとても勇気づけられる。人物ごとの目線での演出がとても面白い。ミステリとしてもヒューマンドラマとしても楽しめる。読後といわず読中にルソーの絵画を確認したくなってしまう。

④「64」横山秀夫

横山秀夫の華麗な復活作。自身が認めるとおり空白の期間を充電期間として、よりパワーアップして帰ってきてくれた。重なるいくつかの問題は複線の宝庫。そして読者の予想をはるかに超えた真相と結末。これは人生の深淵まで手繰らなければ作り出せない作品だろう。お見事と言うしかない。

⑤「百年法」山田宗樹

医療技術の進んだ近未来、人は永遠の若さを手に入れた。それ故、寿命を100年に区切るという突飛な設定なのだが、これがとても面白い。決められた命の期限に感情は左右される。また政府の施策であるため政治的要素が絡むがこれがまた面白さを加速させている。最後の落としどころもまた素晴らしかった。

⑥「猫背の虎 動乱始末」真保裕一

大震災に見舞われた江戸を舞台に新米の同心の活躍を描く時代小説エンターテイメント。べたな設定ながら人情味あふれるそれぞれの関係にほろりとさせられる。連作短編でテンポもよく、それでいて軽くも重くもなっていない抜群の安定感。真保作品特有の蘊蓄も少なめで読みやすい。

⑦「ラバーソウル」井上夢人

ストーカーの身の毛もよだつ心理描写に挫折しそうになったが、そこは頑張って最後まで読んで正解だった。ここに描かれている愛情は読者の想像をはるかに超えている。叙述トリックとして一級品なのだが、それだけで済まされない奥深さがある。「人を愛する」というのは底知れないものだと思い知らされた。

⑧「偉大なるしゅららぼん」万城目学

「プリンセストヨトミ」同様、万城目ワールド全開の世界設定が終始楽しませてくれる。代々伝わる力。それを知った主人公の人生は急展開を見せていく。展開ははちゃめちゃだが、物語の軸がしっかりしており安心して読み進められる。ラストシーンを眼に浮かべるとその壮大さに感動してしまう。

⑨「無花果の森」小池真理子

小池作品に外れなし。安定感ある作品を読みたくてあえて手に取ったが相変わらずの安定感に心落ち着いた。とはいえ、そこは小池恋愛小説。内容自体に落ち着きはないw。DVを扱っており心乱されるシーンもしばしば。それでも円熟味あふれる文体が全体を包み込む形でまとめてくれる。心の動きを見事に表現。

⑩「開かせていただき光栄です」皆川博子

登場人物が多く、難解な用語も使われているため読み手に負荷を与えるのだが、練りこまれたプロットで事件に深みを与えている。正統派ミステリとして派手な技巧をこらさないストレートさが素晴らしい。驚くべきはこの大作を仕上げた作家が80歳を越えていること。その創作意欲に感服する。

⑪「蜩の記」葉室麟

時代小説の名手・葉室麟氏の直木賞受賞作品。清廉で上質な作りになっている。見どころは主人公の生き様、考え方で、とてもすがすがしい。また語り手の人間味もバランスよく対をなしている。主人公の息子が立派に成長していく様子をみるのもなかなかオツで登場人物がとにかく魅力的な時代小説だった。

⑫「舟を編む」三浦しをん

ライトノベル風でありながら題材が大きく、時間軸も長め。地味ながら辞典づくりの難しさ、面白さを伝えてくれる良作。本は「言葉」が命だけに、言葉の作業に関わっている職業人を応援したくなる。地味と言いつつ本屋大賞にも輝き映像化された。冲方丁氏の「天地明察」における作業に似ていた。

⑬「絶望の国の幸福な若者たち」古市憲寿

個人的には古市氏の考え方とは相容れなかったのだが、高評価したのはその説得力にある。反対意見であっても「たしかに」「そうだ」と同調する部分が多数あり、じっくり話し合いたいくらい。アプローチも素晴らしく目の付け所がとても良かった。データの引用も上手く学ばされる。

⑭「本日は大安なり」辻村深月

複数の物語が同時並行してすすみ、一つの物語に集約する。よく見られる手法だがここまで活かしきれている作品は少ないのではないか。これまでの辻村作品ともいつものようにリンクしておりファンにはたまらない。用意された結末には賛否あるかもしれないが、タイトルからも平穏無事が一番だと思う。

⑮「禁断の魔術」東野圭吾

ガリレオシリーズはドラマ化されてすっかり映像向けになったかと思いきゃ、小説としても一流であることをこの作品で証明してみせた。作者自身もシリーズ終了を覆してでも書きたかったと告白するくらい自信の出来も納得。その中でも「猛射つ」は秀逸。科学者が作るのは善か悪か、これは永遠のテーマだ。