【『人類最初の殺人』上田未来】を褒める

2021年9月16日

読了後の感想(3分で読めるよ)







「人類最初の~」で始まる形式の物語が5編。“殺人”“詐欺”“盗聴”“誘拐”“密室殺人”とその起源をうまく空想した面白い試みになっていました。特に表題作の“殺人”について、世界設定もうまく本当に目の付け所がいいなと思えましたし、その次の“詐欺”もどんでん返しが用意されており面白かったです。聞けばこれがデビュー作という上田未来さん。今後の構想にも期待がかかります。

現代において犯罪というものは複雑化しており、そのトリックもますます難解になっているのですが、まさに逆転の発想。最初の段階では単純明快、計画も大雑把。そして偶発的な要素や環境的な要因も絡み合い、わかりやすくも予期できない展開が待ち受けています。どうしても現代の感覚で結末を予想しても無理があるというものです。「なるほど、そうなるのか」「なるほど、そっちいっちゃう」ってな感じで別の意味でミステリの原点を見たような気がします(いや、犯罪の原点というべきか)。こうした新しい視点を持つことがとても大事ですよね。漫才でミルクボーイやぺこぱなど、新しいスタイルの漫才が飛躍するように、小説の世界でも伊坂さんしかり、辻村さんしかり、新しいスタイルの作品がチャンスを掴むような気がします。

さらにラジオの語りを聞いているかのような世界観。そのラジオ放送(?)中で「人類最初の~」が語られているかのような演出も面白かったと思います。昔の深夜ラジオを聞いているような気にもなりましたし、映画にもなった『翔んで埼玉』でも車から流れるラジオで、その歴史が語られるという形式をとっていましたので、それを思い出しました。

欲を言えば、このスタイルはもっともっと突き詰められたのではないかと思います。これはこれで十分面白かったのですが、まだもっと何か可能性を感じます。同じ題材で経験豊かなベテランさんや力量十分の作家さんが手掛けると、もっと驚かせてもらえる気がしました。そういう意味では新人作家さんの粗削りなところはあったかと思います。けれどもそれが魅力だと感じる方もいるでしょう。まだまだこのテーマで続編は作れそうな気がしますし、この作家さんならまだまだ新しい視点を提供してくれそうな気がしますので、今後本当に期待したいものですね。

なお今回はどうしても装丁に目が惹かれました。皆さんもきっとあの漫画界の巨匠・手塚治虫さんを思い浮かべたと思うのですが、こちらは「つのがい」さんという若手のイラストレーターさんでした。手塚さんの絵の模写をしているうちに、手塚プロダクションから声がかかり、高齢化が進むプロダクションの希望の星として迎えられたそうですよ。素敵な話ですね。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★

面 白 さ ★★★★

上 手 さ ★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★