【『地の星 ~流転の海 第二部~(再読)』宮本輝】を褒める

読了後の感想(2分で読めるよ)

引き続き、流転の海シリーズを読んでいきます。今回は第2弾となる『地の星』です。第一部では松坂熊吾が大阪での商売を成功させるも、一人息子の伸仁や家族のこともあり、地元愛媛に戻って新しい人生をスタートさせようとその商売を閉じるところまでが描かれていました。もちろん第一作目ということもあり、熊吾の人となりが豪快に描かれるだけでなく、主要キャラクターの生い立ちなどが事細かに描かれ、それだけでも十分に作品として形を成していました。にも関わらずこのシリーズはこの後、今回の第二部を合わせて8作品続くのですから本当に大作ですし、今から楽しみで仕方がありません。

前回第一部を25年くらいのインターバルを空けて読んだにも関わらず、たくさんのことを一気に思い出せました。すっかり忘れていたはずなのに、思い出せるって自画自賛したりなんかしてねw。それほど宮本輝さんの筆致が素晴らしいという証明でもありましたね。

さて第二部ですが愛媛に戻った熊吾の前に、宿敵 “わうどうの伊佐男” があらわれます。不気味で蛇のような男、ならずものとなり、少年の頃の熊吾への恨みをいまだ忘れず、邪魔をしてきます。そんなことに怯む熊吾ではないのでしょうけれど、妻や子供を持った立場であまり無理もできないこともあったでしょうし、妻・房江がこの伊佐男に対してかなりの嫌悪感を示しています。一方で茂重や千代麿といった志を共にするものもあらわれたり、親友の周栄文の娘、麻衣子に再会し面倒を見たり、家族であるタネ・ヒサらとの交流も描かれます。さすが地元に帰っただけありますね。

今作では第一部と違う大きな見どころが熊吾自身が自分の運命や人生について考えるところでしょうか。迷うことなくまっすぐに突き進んでいた熊吾が、故郷愛媛で自身の忘れていた幼い頃のエピソードを聞いたり思い出したり、そしてそれが伸仁に重なったり、あるいは伊佐男との因縁を思い出せないまでも逃れられない運命の絡みを感じ取る中で、息子の伸仁はどういう人生を送るのか、妻・房江の恵まれなかったこれまでや自分との関係、田舎での暮らしを振り返る中で、彼はもう一度大阪に出る決意をしていくのです。そして故郷との決別を決意するのです。その決断はこのように言葉にすると簡単なように見えますが、この大作シリーズの一巻を使って滔々と語られると、とても含蓄のある、熊吾らしい決断であることがわかります。ただ豪快な一面だけでなく、実は繊細で複雑な葛藤を抱え込む熊吾の弱さのようなものが見え隠れするのです。こういった一面が “松坂熊吾” という強烈すぎる個性を持ったキャラクターの魅力をさらに大きなものとしているように思えました。また、これまでずっと熊吾についていく中で、自分を出せずに弱々しさの目立っていた房江に、自我が芽生え時には強い意志を持って熊吾に相対するシーンもあり、この夫婦の力関係の微妙な変化も面白く読めました。

そして先ほど運命や人生を熊吾が考えると書きましたが、これは読者も同じように考えさせられるようになっています。この第二部では結構多くの主要人物が亡くなります。その死が決して派手に描かれているわけではありません。どちらかというと“はかなさ”“虚無感”“無力感”などを感じるようなものとなっており、運命の流れにはいかに強烈な熊吾でも抗えないことにうちひしがれてしまいます。またアクの強い伊佐男も意外な形であっさりと舞台から退場していくのです。こういったどうしようもなさこそが、演出のないリアルな人の生き死にを表しており、こうして小説の中でそれを表現する宮本輝さんの上手さを限りなく引き出しているような気がします。こんななんでもないことを物語にするなんてなかなかできないですからね。

さてなんだかんだでもう一度、熊吾は大阪に戻ります。一度、退いた熊吾がどうやって再興していくのか。また年老いた母親のヒサはどうするのか。わがままで一筋縄ではいかなお妹のタネはどうするのか。房江の気持ちは、伸仁の成長は。それは次回第三部でのお話となります。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★★★

世 界 観 ★★★★★★

オススメ度 ★★★★★

地の星 ひょうちゃん作目次

※勘のいい人にとってはこの程度でもネタバレになるかもしれません。

もし不安であれば、この先は見ないでください

 

第一章 わうどうの伊佐男登場

第二章 茂十との語らい

第三章 音吉と戦争 井草の消息

第四章 井草・谷山節子との再会

第五章 茂十の選挙戦

第六章 ダンスホールの完成

第七章 挟み将棋の理論

第八章 伊佐男の最期

第九章 再上阪へ