【『銀河鉄道の夜』宮沢賢治】を薦める

読書のススメ(5分で読めるよ)

童話作家として有名な宮沢賢治。今も多くの教科書に賢治の作品が掲載されており、『風の又三郎』『注文の多い料理店』『セロ弾きのゴーシュ』『オツベルと像』『やまなし』など誰もが一度は読んだ事のある作品がずらりと並びます。また『雨ニモマケズ』はあまりに有名な詩として有名ですし、『春と修羅』におさめられている妹のトシの臨終をうたった『永訣の朝』も多くの人の心を揺さぶっています。私は小学校6年の誕生日に「宮沢賢治全集」を買ってもらい、とにかく賢治の作品を読みあさっていました。その中でも、私が一番好きな作品、そして人生においても3番目に好きな作品となったのが『銀河鉄道の夜』でした。私が本格的に本好きとなったのはこの作品がきっかけといっても過言ではありません。

あるお祭りに向かったジョバンニが見つけたのは不思議な銀河鉄道に乗り込もうとする友人カムパネルラの姿でした。いつも学校でいじめられているジョバンニ、けれどカムパネルラだけはジョバンニを馬鹿にしたりせず、かばってくれたりしていました。いつのまにかカムパネルラと一緒に列車にのったジョバンニの前に不思議な事が次から次へと起こります。幻想的な世界を駆け抜ける列車の行き着く場所は一体・・・。カムパネルラは何故ここに居たのか、そしてどこへ向かったのか。その真相はジョバンニが列車の旅を終えたときに明らかになるのです。

この作品は童話ではあるのですが私にとっては初めてのミステリ作品でもありました。最初読んだときにはこの世界を理解する事ができなかったからです。それまで童話や文豪の小説は読んでさえいれば、ストーリーがわかり結末に導かれるモノでした(当たり前ですね)。けれどもこの作品はそうはならなかったのです。「えっ?どういうこと」と初めて作品に惑わされたのでした。そこから再読をしたり親に解釈を聞いたりしながら、謎を解き明かしていき、自分なりの解答を得られたときは、なんともいえない感動を覚えました。と同時に、一回目読んだときのストーリーが幾倍にも感動の波が大きくなってはねかえってきたのです。これ、まさにミステリの醍醐味ですよね。実際には未完である『銀河鉄道の夜』は未だに解明されていない部分もあり、議論がなされているところですが、それは私にとっては大きな問題ではありませんでした。真偽はどうあれ、読解をするという楽しみを教えてくれたのがこの作品でした。

さらに、この作品は生と死が如実に表されます。それも子供向けにしては非情なほどに。これも衝撃でした。もちろん、他の童話や小説でも普通に生き死には出てきていました。けれども『銀河鉄道の夜』のように“死の世界”や“死の概念”を意識させるものはありませんでしたし、多分に哲学的でもありました。物語にはどこかに救いがあると思っていた私の幻想も打ち砕かれました。同時に、私の考えている救いが必ずしも救いではなく、別の形の救いがあることも教えてもらえました。

上記のように作品としてとても練られた名作で複線を張り巡らせるあたり、とても子供向けの作品に収まりません。さらに、この物語は宮沢賢治ならではの巧みな表現も功を奏しています。放つ言葉は星空を思い浮かべられるほど幻想的で美しく、輝きを放っています。子供心に「心に刺さる」という体験をさせてもらえました。

 

レビュー

<読みやすさ>

元々子供向けの童話ですから大人にとっては読みやすいことこの上ありません。逆に子供さんにとっては初めて体験するミステリとなることでしょうから、読みにくいという感想を持ってしまうのかもしれませんね。

<面 白 さ>

大人が読んでも十分に面白く、ファンタジー作品としてもSF作品としても、もちろんミステリ作品としても評価できる作品です。展開はとても面白く、結末は予想だにしない衝撃的なものです。

<上 手 さ>

さすがは詩人としても有名だった宮沢賢治ですね。言葉の巧みさは言うまでもなく、その使い方なども含めて魅せられるレベルです。あっという間に銀河鉄道が夜空を走る光景が目に浮かびます。

<世 界 観>

『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』のヒントはこの作品にあったのではないかと思えるくらい壮大で幻想的な世界を描いています。この作品から離れるのが寂しくなるほど、夢中になれるのです。

<オススメ度>

子供向けという点から考えた場合、この作品が一番オススメです。また宗教に全く関係なく生死について考えることのできるとても良い題材だと思います。もし未読であれば、ぜひ今からでも読んでください。