【2020年読書ランキング】で褒める

2021年10月11日

2020年読書ランキング

  1. 『流浪の月』凪良ゆう
  2. 『ライオンのおやつ』小川糸
  3. 『逆ソクラテス』伊坂幸太郎
  4. 『じんかん』今村翔吾
  5. 『暗約領域~新宿鮫Ⅺ~』大沢在昌
  6. 『銀花の蔵』遠田潤子
  7. 『あの日の交換日記』辻堂ゆめ
  8. 『流人道中記』浅田次郎
  9. 『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ
  10. 『ひと』小野寺史宜
  11. 『クスノキの番人』東野圭吾
  12. 『アトポス』島田荘司
  13. 『カラスの親指』『カエルの小指』道尾秀介
  14. 『イマジン』有川ひろ
  15. 『犬と少年』馳星周

それぞれの一言コメント

※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。

①「流浪の月」凪良ゆう

並々ならぬ才能を感じる本屋大賞受賞作品。誘拐事件の真相は当事者しか知らない。周囲の誤解やそれぞれが持つ悲しい事情。しかし、それらを受け止めて結びついていく人間模様は本年度最高のクオリティで他の追随を許さなかった。ニュータイプの社会派作品といえる傑作。Twitterなどでも話題沸騰は納得ですね。

②「ライオンのおやつ」小川糸

勇気を持って終末期を取り扱った意欲作。近年の大きな問題でもある死の迎え方、緩和ケア。施設に集まった個性的なメンバーへの願望、生き様、そして死。彼らの背景を知ったとき、すべてのすながりに心に突き刺さる結末へとつながる。そこへの展開も秀逸で、最後まで1位にするか2位にするかで迷った作品。

③「逆ソクラテス」伊坂幸太郎

これまでの伊坂作品のようなコミカルかつ技巧的な作品とは一線を画した新境地とも言える作品。子供たちのいじめや取り巻く環境の過酷さを扱っており、どちらかというと重松清作品に雰囲気が似ていた。一人ひとり別のエピソードが用意されているが、大人になってから上手く絡んでいくのもとても面白かった。

④「じんかん」今村翔吾

戦国時代の悪人として名高い松永久秀。ドラマでも悪く扱われているが、その久秀に焦点をあてた作品。ただの歴史小説というよりは久秀という人間の一代記になっており、久秀の魅力はもちろん、作品そのものや時代背景も含めて魅力を高めている。読みやすくテンポがよいので歴史小説が苦手な方にもおすすめできる。

⑤「暗約領域~新宿鮫Ⅺ~」大沢在昌

犯罪者に食らいついたら鮫のごとく離さない鮫島の活躍を描く新宿鮫シリーズの第11作。前作で信頼する多くの人間を失った鮫島。そんな中でも彼の悪に対する怒りは消えるどころかますます高まっている。激しい心理戦や息詰まる攻防は相変わらずだが、人間模様はこれまでに比べて寂しくなってしまった。

⑥「銀花の蔵」遠田潤子

万博で盛り上がる日本の様子がよくわかる作品。醤油蔵の父親の実家で遭遇した事件。そこには様々な人間の思惑が絡んでいた。数々の苦難や秘事を背負い、主人公は力強く生きていく。やがて訪れる静かな時代、たどり着いた登場人物たちの含蓄ある言動行動は人生背景が成熟したものだった。

⑦「あの日の交換日記」辻堂ゆめ

「交換日記」という青春時代のほのぼのしたタイトルとは裏腹の衝撃的な内容の記述があり、ぐいぐいと物語に引き込まれる。真相は一体?途中、書き手や時間軸がわからなくなるが、この叙述トリックを駆使し、最後はほっとする落としどころを用意してくれているので好感が持てる終わり方だった。

⑧「流人道中記」浅田次郎

姦通の罪を犯したとされる旗本・青山玄蕃を流刑地に連れて行く若い与力の石川乙次郎。罪人なのに堂々としている玄蕃の謎を追いかける。「切腹は痛いから嫌だ」という間抜けな発言の真意は何なのか。次第にわかってくる玄蕃の人となり、事件の真相、同時に乙次郎の成長も記された良作。

⑨「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ

家族に恵まれなかった貴湖と、母に虐待されてきた「ムシ」と呼ばれるしゃべらない少年。二人の先妻で壊れそうな魂のかけあいが、心の琴線に触れる。虐待やDVの他、自殺、ジェンダーと多くの愛について触れた問題作。欲すれば欲するほど歪んでしまうのは人間の悲しい性というべきだろうか。

⑩「ひと」小野寺史宜

久しぶりに正統派の青春小説に出会えた。ここまでまっすぐな作品で、てらいの無い小説も珍しい。読み始めは少しベタな展開に不安を感じたが、主人公の一年間を追っかけていくと、人はひとりでは生きていけない、他人に迷惑をかけながら生きていくべきという基本的なことに気づかされる。

⑪「クスノキの番人」東野圭吾

願いが叶うという「クスノキ」の番人に理由も教えてもらえず任された少年。そこに訪れる人々との奇妙な物語。今や初期の東野作品のように目新しさは感じないし、今回は設定が強引で、非現実的な世界を描いていたが、面白いことには変わりが無い。これもまた作家の力量の高さであろう。

⑫「アトポス」島田荘司

古い作品だが、ボカロ曲からたどり着いた稀代の殺戮者“エリザベート・バートリ”という王女の史実に興味を持ち手に取った。その史実の物語化もさることながら、舞台戯曲を通したミステリとして秀逸。結末の大団円より、事件の進行に重きが置かれ緻密な描写が圧倒的な、大御所の安定感を知らされる一作。

⑬「カラスの親指」「カエルの小指」道尾秀介

伊坂作品を思わせるような快活でコミカルな騙しあいが繰り広げられる。詐欺師たちの大がかりな計画は見事だが、詐欺師とはいえ人間味あふれる登場人物たちに心情移入してしまうから厄介だ。それでいて、計画は壮大かつ完璧。“ルパン三世”“オーシャンズ11”“コンフィデンスマンJP”にも似た世界観。

⑭「イマジン」有川ひろ

図書館戦争シリーズで名を馳せた有川浩さんが改名。とはいえ得意の仕事小説およびラブコメはこれまでの作風を踏襲している。主人公がドラマ制作現場に飛び込み、業界ならではの事情をうまく紹介してくれる。面白く勉強にはなったが、いつもの有川さんらしい登場人物への魅力付けは少し薄かったかもしれない。

⑮「少年と犬」馳星周

今更のように思える馳さんの直木賞受賞作品。これまで裏社会のドロドロとした人間模様を映し出してきたノワール作家だが、今作では犬を主人公として、とりまく人間関係を描くという一風変わった手法が魅力的。とても爽やかなテンポで進むが、物語の根底に潜むノワール感が背筋を冷たくさせたのも否めない。