【2003年読書ランキング】で褒める
2003年読書ランキング
- 『永遠の仔』天童荒太
- 『影武者徳川家康』隆慶一郎
- 『片想い』東野圭吾
- 『風の万里 黎明の空 ~十二国記~』小野不由美
- 『聖なる黒夜』柴田よしき
- 『手紙』東野圭吾
- 『慟哭』貫井徳郎
- 『クライマーズ・ハイ』横山秀夫
- 『ストロボ』真保裕一
- 『冬の伽藍』小池真理子
- 『プラネタリウムのふたご』いしいしんじ
- 『天使の牙』大沢在昌
- 『永遠の出口』森絵都
- 『コンビニ・ララバイ』池永陽
- 『流星ワゴン』重松清
それぞれの一言コメント
※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。
①「永遠の仔」天童荒太
天童荒太さんが放つ最高級の感動巨編。謎めいた人間関係と事件、皮肉な人生模様と驚愕の真相。どれをとっても衝撃を受ける。親だからといって誰しも完璧ではないことはわかっている。けれども、その環境下におかれてしまった子供たちの恨みつらみはいかばかりか。誰も悪くない、誰も責められない、それは悲しい運命だった。
②「影武者徳川家康」隆慶一郎
歴史小説の概念を根底から覆す作者から史実に対する挑戦的作品。誰もが信じて疑わない徳川家康の治世。この厳然たる事実に疑問符をつけ、大虚構を演出する。しかしあまりに突飛で馬鹿げた法螺話のようなこの仮説が、数々の証拠や語りの中で現実と錯覚させられていく。読後は影武者こそが家康としか思えなくなっていた。
③「片想い」東野圭吾
『秘密』の流れを汲むかのような東野圭吾さんの切ないラブストーリー。驚くべきはこの時代にすでにジェンダー問題に取り組み、現在でも通用するような落としどころを持たせている点だ。「性同一障害」をめぐって登場人物たちが思い悩み苦しむ姿は現代を予見していたかのよう。様々な心情が入り乱れて、それこそ『片想い』というタイトルが意味深く響く。
④「風の万里 黎明の空 ~十二国記~」小野不由美
大人気ファンタジーライトノベル第四弾。十二国記の中でも壮大な世界設定は随一。一作目に比べて景国の王・陽子の成長が目ざましい。待ち受ける数奇な運命と艱難辛苦。弱かった主人公が凛々しい英雄となっていくのを目の当たりにする。もはやライトノベルの域を超え大河小説として恥ずかしくない作品にまで昇華したと言えよう。
⑤「聖なる黒夜」柴田よしき
RIKOシリーズの外伝。シリーズの宿敵であった山内錬と警察である麻生龍太郎との過去の因縁が描かれる。その物語は圧巻でシリーズ本編を凌ぐ壮絶なものであった。他に花咲シリーズとも関連しており整合性も抜群、現代における辻村深月ワールドのようなものを、この時代に完成させていたことがよくわかる。しかし作品の本当の魅力は完璧になりきれない登場人物の不完全さにある。
⑥「手紙」東野圭吾
東野さん特有の切ない世界が全編通して漂っている名作。つきつけられた厳しい現実、理不尽極まりない状況。それらのことが「罪」について考えさせてくれる。日本版の『罪と罰』。「贖罪」の本当の意味は何なのか。困難な関係を越えて再会した兄弟のあいだに流れたものがラスト一行に凝縮されていた。
⑦「慟哭」貫井徳郎
貫井徳郎さんの伝説のデビュー作。驚愕の叙述トリックの衝撃はいまだに忘れられない。ミステリの持つ面白さが最大限活かされており、読後はタイトルの深さにも脱帽することだろう。章ごとに追う者、追われる者の視点を変えるという構成力も見事。ラストに用意された仰天の結末と犯罪者の問いかけ、刑事の返答がこの作品の悲哀を増し加えている。
⑧「クライマーズ・ハイ」横山秀夫
警察小説を得意とする横山秀夫さんが新聞記者に焦点をあて、その熱き戦いを描いた超大作。硬質感あふれる文体が緊張感、緊迫感を演出し手に汗握らせる。新聞社のリアルな内情も見ものだが、主人公とその息子の親子関係、相棒との友情など熱い人間関係をも美しく描き出しており、ヒューマンドラマとしても秀逸。
⑨「ストロボ」真保裕一
5章から1章に向けて逆再生するという一風変わった物語の構成。そしてその試みは見事に成功した。カメラマンという職業を通して、風景ではなく心の世界を撮影することで粋な演出に仕上げた。主人公の生き様は誠実でまっすぐで読んでいて気持ちがよい。1章1章丁寧な作りで心に突き刺さる。(新幹線のホームで、この本を読んでいたせいで乗り遅れてしまった:実話w)
⑩「冬の伽藍」小池真理子
恋愛小説の名手・小池真理子さんの美しすぎる記録。主人公の女性の微妙な気持ちを巧みに映し出しているのだが、作品に余裕を感じる。全体を通して読み手を不安にさせることなく安心して読める。心情描写ののみならず情景描写にも長けており、その美しい世界が目に浮かぶよう。視点と文体が異なる3つの章仕立ても素晴らしくまさに完全無欠の作品。
⑪「プラネタリウムのふたご」いしいしんじ
ゆったりした語り口調が特徴のいしいしんじさん。大人の童話と言えばよいのか。宮沢賢治さんの繰り出す世界にも似て幻想的でありシュールな香りもしている。プラネタリウムに置かれた双子を解説員が育てるという奇妙な設定だが、家族というものを考えさせてくれるのは間違いない。残酷ともいえる結末は「哀しさ」より「温かさ」を感じさせてくれる。
⑫「天使の牙」大沢在昌
安定感のある超高速ノンストップアクション。いまだかつてこんなにスピード感のある小説を読んだことがない。しかも正統派ハードボイルド。人物設定や世界設定もとても面白く個性的。警察社会の腐敗を映し出す手法も見事で新宿鮫シリーズをも彷彿させる。もともと映画化をにらんで作られただけあって(実際映画化された)、リアリティがあった。
⑬「永遠の出口」森絵都
『カラフル』『DIVE』で有名になった児童文学の旗手・森絵都さんが満を持して大人向け小説を描いた。当時はかなり話題になったが、最近ではむしろ『カラフル』のほうが読まれ続けていることに驚き。それでも今作では誰もが通過する懐かしい気持ちを巧みに捉え、主人公の「永遠」の価値観が「現在(瞬間)」としているのも興味深い。丁寧な心理描写はさすが。
⑭「コンビニ・ララバイ」池永陽
「ミユキマート」という小さなコンビニに集まる人間模様を描いた7つの物語。息子と妻を交通事故で亡くした男の接客ぶりは温かみがあり、誠実で読むものに勇気を与えてくれる。模範的とは言えない生き方かもしれないが、模範にしたい生き方とも言えよう。せちがらい世の中に一石を投じる快作。
⑮「流星ワゴン」重松清
親子関係の尊さを描くSF的感動長編。子どもの視点、親の視点、双方の交わりを三世代の対比を用いて上手く表現している。待ち受ける厳しい現実に真っ向から立ち向かう姿勢に共感を覚える。やり直しがきかない人生だからこそ、今というこの瞬間が美しい。東野圭吾さんの『トキオ(時生)』もこの年読んだが、どちらもよく似た設定でどちらも素晴らしかった。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません