【ラファエロ】を褒める

2022年6月14日

《ウルビーノに生まれし三角図法と聖母子の名手》

ルネサンスの三大画家の一人でありながら、“ダ・ヴィンチ”、“ミケランジェロ”に比べて、その名はややインパクトに欠ける印象のあるラファエロ。けれども彼の描いた絵を私たちは多数目にしています。ダ・ヴィンチの『モナリザ』『最後の晩餐』、ミケランジェロの『最後の審判』『ダビデ像』のように、単体で圧倒的な存在を示す代表作がないかわりに、聖母子や天使を用いた数多くの宗教絵画が私たちの心を癒してくれるのです。私が最初に心惹かれたのは、ラファエロが描く聖母の眼差しでした。柔らかく澄んだ目、潤んだ瞳、優しくおろされたまぶた、信じられないような肉質を持ったその絵に一瞬で虜になりました。そして、どの絵を見ても抜群の安定感があるのですが、これこそラファエロの真骨頂。三角図法と呼ばれる構図は『モナリザ』で有名になったものの、実はラファエロの残した絵画にこそ多く見られた手法でした。これにより主となるモデルのインパクトと遠近感を利用した奥行きを実現させています。ダ・ヴィンチは天才的に突き抜け、ミケランジェロは芸術的にこだわりを見せ、両者の作風はどこかしら哲学的です。それゆえお互いがぶつかり合い、時に刺々しさを感じさせる側面があるのですが、ラファエロはそういったものとは無縁でした。優雅で息をのむような柔らかい作風は、完成度は二人に劣っていたかもしれませんが、万民に愛される点では二人に勝っていたのです。完成度が劣ると書きましたが、実際にはそんなことはありません。ラファエロが全て関わった作品はそれこそ高い完成度を誇ります。ただ、前述の二人が自ら強いこだわりをもって一人で作品を仕上げるのに対して、ラファエロは多数の依頼を受けていたために、時にはモデルをおかなかったり、仕上げを弟子に任せることがあったために、結果として完成度に影響がでてしまっただけなのです。『ラ・フォルナリーナ』『アラゴンのジョヴァンナ』『ラ・ヴェラータ』はどれもほぼ同じ角度から描いた女性の肖像画ですが、3作品を見比べると面白いことがわかります。『ラ・フォルナリーナ』は弟子が仕上げたため、ラファエロ特有の瞳の潤いがありません。また『アラゴンのジョヴァンナ』は遠方の女性を描かないといけなかったため、目の前にモデルをおけず、結果として肌の肉質を出せず淡白て平べったい印象を受けてしまいます。一方目の前にモデルをおき最後までラファエロが描ききった『ラ・ヴェラータ』は前述の二作品を凌駕した完成度であることが一目瞭然です。

『アテナイの学堂』ではとても面白い試みがなされています。古代ギリシャの哲学者や数学者を一堂に集めた絵画ですが、プラトンはダ・ヴィンチに、ヘラクレイトスはミケランジェロに、ユークリッドはブラマンテに、それぞれモデルとして描いたのです。そして、右隅にラファエロ自身を登場させるなど、大作の中にたくさんの遊びを入れるところに彼の心の余裕を見るのです。

残念ながらラファエロは37歳という若さでこの世を去ったのですが、命日は彼の誕生日であったこともどこかしら物悲しさを感じてしまいますね。

 

おすすめ10選

『聖ミカエルと龍』

 

『小椅子の聖母』

 

『アテナイの学堂』

『ひわの聖母』

 

『美しき女庭師』

 

『女性の肖像(ラ・ヴェラータ)』

 

『キリストの変容』

 

『大公の聖母』

 

『アルバの聖母』

 

『聖ペテロの解放』