【『空飛ぶタイヤ』池井戸潤】を薦める

読書のススメ(2分で読めるよ)

近年、池井戸作品は次々にドラマ化、映像化され、それぞれ大人気を博しています。『半沢直樹シリーズ』『下町ロケットシリーズ』『鉄の骨』『陸王』『ルーズヴェルト・ゲーム』『ノーサイド・ゲーム』『花咲舞シリーズ』などなど。東野圭吾さんや宮部みゆきさんと似た傾向が出てきましたね。けれども東野さんや宮部さんのようにミステリや推理を土台とするのではなく、社会派エンターテイメントという点が大きく違うところでしょう。当初、私はこの社会派小説が苦手でした。あの半沢直樹シリーズの『おれたちバブル入行組』でさえ、最初は面白いとまで思えてなかったのを思い出します。

そんな中でこの『空飛ぶタイヤ』については今でもはっきり覚えているのが、当時私が運営していた読書HPの界隈で大きく話題になっていたことです。仲の良い管理人さん(HPの運営者をこのように呼んでいましたね)たちがこぞって『空飛ぶタイヤ』を薦めてくれるのです。2006年に刊行され、2007年に話題になったにも関わらず、乗り遅れた私は2008年のランキング1位としています。このことからも社会派に対する苦手意識があったことがわかりますね。けれども、この作品の題材は当時大手自動車メーカーによるリコール隠しの問題、そして実際に起きた事故の悲劇とともに無視できないものでもあったのです。そして手に取って読み終えた後、私はこういった意義のある作品を世に広めたいという使命感のようなものを持ったのを覚えています。

現在はTwitterの読書垢さんの読了ツイートなどでおすすめを拝見したりしますが、これがとても意義ある素晴らしいことだと感じれるのも、この『空飛ぶタイヤ』をおススメいただいた過去があったからだと言えるのです。

物語はある運送会社のトラックのタイヤが外れ、それが歩道を歩いていた主婦を直撃、命を奪ってしまうという事件で始まります。当初はこの運送会社の整備不良が事故の原因とされていましたが、運送会社社長の赤松徳郎は整備記録を見ても、どうしてもその原因が整備不良が原因だと思えないのでした。疑問に思った赤松は車そのものに問題が無かったのかを調べ、そしてついには自動車メーカーとの大きな戦いに挑むことになるのでした。池井戸作品にはよくある構図ですが、これを一気に広めることになったのも『空飛ぶタイヤ』の功績ではないでしょうか。そこからは幾度もピンチに陥る赤松。事態は自動車販売会社、系列の銀行も巻き込んで、行き先も見えない沼にはまりこんでいくのです。そこからの大逆転劇をぜひ小説にて楽しんでいただきたいと思います。

レビュー

<読みやすさ>

社会派小説がこんなにも読みやすいなんてと驚かされました。それもこれも全部、池井戸さんの巧みな文体によるものです。もはや有名となったのでそれ以上言う事でもないのかもしれませんが、とにかく読みやすい。活字が苦手な方でも全く心配いりません。とても読み手にやさしい描き方をしてくれているので助かります。

<面 白 さ>

とにかく面白い。これもまた池井戸作品全部に言えることですが、事象を面白く伝えるコツを掴んでらっしゃるようです。どんな素材も面白く仕立て上げる事ができる一流のシェフですね。選ぶ題材も面白いし、会話も面白い、落としどころも面白い、何ら心配のいらない安心して読めるとても優秀な作品です。

<上 手 さ>

上記の“読みやすさ”や“面白さ”がこの“上手さ”に起因していることは言うまでもないことでしょう。これまた池井戸作品全てに言えることだと思います。つまるところ池井戸潤さんは一流のエンターテイナーなのです。私の好きな劇団四季の会報にもコーナーを担当されていていつも読むのが楽しみなのです。

<世 界 観>

この作品は実話を基にしています。当時とても有名な事故だったのでよく覚えていますが、ニュースやテレビで伝わってくる背景を窺い知ることなどできませんでした。それをここまで肉付けして物語として作り上げるのですから大したものだと思います。世界観は池井戸さんの頭の中でどのように練りあげられているのでしょうか。感服です。

<オススメ度>

歴代ベストワンの作品がお涙頂戴系が多いのは仕方がないことなのですが、この作品は決してお涙頂戴ではなく、とても考えさせられる小説です。そして単純な感動モノとは違い、別の深みを感じ取ることができます。また実話を基にしているため真に迫るものがあります。多くの方に読んでいただきたい作品だと言えます。