【『廃墟の白墨』遠田潤子】を褒める

読了後の感想(3分で読めるよ)

怪しげで魅惑的なタイトルに惹かれ読み始めたこの物語。けれども内容はとても重く暗いものでした。前半から中盤にかけてはとてもテンポよくその展開が気になってどんどん読めたのですが、次第にその重さにページをめくるのがしんどくなってきたくらい辛い物語でした。もともと遠田さんと言えば、日常をそのまま切り取り、辛さ厳しさ貧しさを等身大に描くことが上手だと評判です。私の2020年読書ランキング入りさせた『銀花の蔵』などは見事でした。大きな罪を犯し、大きな傷を背負いながらも、最終的には前を向いて勇気を持って歩んでいくその姿に感動させられたものでした。今作では、もっとあからさまに闇の部分にスポットライトを当てながら、そこにある真実を映し出そうという試みだったのでしょう。ただ、それにしてもという感じでした。正直なところ褒め記事にするかどうか迷ったくらいではあったのですが、作者のこの作品へのインタビュー記事を読んで、作品としては褒め所が十分にあることに気づきました。ですのでオススメ度については今回は低めにつけております。

奇妙な廃墟ビルでおきていた悲劇。その当時のことをよく知る三人の男たちの話をつなぎ合わせることで浮かび上がる過去。それはあまりに歪んだ普通とは思えないような出来事がそこにありました。それはそうすることが正しい、というよりそうするしかなかった、その世界での正論、そして普通からは逸脱した異論であったことでしょう。この作品の褒め所はそうした事実を浮かび上がらせるテクニックにあります。ミステリアスで何が普通であるかがわからなくなるような語り。結局のところ道徳というのはその世界において変わるものなのかもしれません。そしてこの廃墟ビルのわずかな時間の夢物語は、作者の思惑で言えばアラビアンナイト(そんな華やかなものではない)のような世界観のシニカルな表現だったのではないでしょうか。

しかしながら冷静に考えてみればそれはどれも身勝手であり、登場人物にとって本当の幸せとは言えないようなものかもしれません。倫理に悖る眉をひそめるような世界だったかもしれません。けれども他の退廃的作品やノワールのような黒々としたものとは少し違う、なんだか身近さを感じさせるのは遠田さんの上手さが光っていたということになるのでしょうね。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★

面 白 さ ★★★

上 手 さ ★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★