【『天の夜曲 ~流転の海 第四部~(再読)』宮本輝】を褒める

読了後の感想(2分で読めるよ)

前作において大阪での再興を見事に果たした松坂熊吾。しかしながら妻・房江が指摘するように、事業が軌道に乗り始めると途端に興味を失ってしまい、すべてを捨ててしまう性格が今回もわざわいし、せっかくの会社経営を自ら手放したのでした。今作ではその後、独立するも台風などの災害もあり苦境に立たされた松坂家が富山のツテを頼って生活しているところから始まります。

ちなみに私はこの作品まで読了しているのですが、いやはや驚きました、ほとんど覚えていませんでした。大体、どうして富山に行ってたのかさえチンプンカンプンで、“再読”というのはあまりに聞こえがよく、ほぼ挫折状態であったことを思い知らされました。まあ、次作以降は正真正銘、初読みとなるので、もうここらは再読ということで甘えさせていただきます(別に何の影響もないだろうしね(^_^;))

これまでの三作は、紆余曲折あってもなんだかんだ上手くいく熊吾の人生が描かれてきました。そしてその持って生まれた才覚や運の強さを読者にも強烈に与え続けてきたのですが、今作ではどうも勝手が違ったようです。4作目にして何をやってもうまくいかず、運の悪さやめぐりの悪さ、環境の悪さなどが次々と襲い掛かり、苦境に立たされる熊吾の姿を見る事ができます。人生のバイオリズムが明らかに下降していることもそうなのですが、ここへきて調子のよかった時代に大切にしてこなかった人物たちのささやかな抵抗(復讐」がなされており、それらはそんなに大きなことではないはずなのに、還暦を迎える熊吾に決して小さくないダメージを与えていくのです。そしてそのことは熊吾だけでなく、妻・房江も同様で、愛媛での田舎暮らしがうまくいったにも関わらず、この富山での暮らしがどうにもこうにも合わないようなのです(富山の皆さん、ごめんなさい、作中でのお話です)。人間関係にも陰がさし様々なほころびを窺い知ることができます。

今回、一気読みすることで、松坂熊吾だけでなく登場人物たちの大きな人生の流れを、ぼんやりとではあるものの感じ取ることができています。また不思議なめぐりあわせも皮肉なめぐりあわせも全て人生なんだと感じずにはおれません。「たら・れば」は禁物ですが、それを思わず考えてしまいそうになるシーンが次々に出てくるのです。本当にますます目が離せない展開になってきました。

ちょうど今作の文庫巻末に作者・宮本輝さんの対談記事が載っていました。そこには「登場人物はもちろん自分の家族で、熊吾が父、房江が母、伸仁が自分であるのだけれど、もはやそれぞれのキャラクターがモデルの立場を超え、別のものになっている」と書かれていました。そうなってくると、自伝的小説とは言え、作者の予期せぬことや意図しない展開も期待できるということでしょう。宮本輝さんの生い立ちを知っているわけではないのですが、どうしてもそんな型にはまらない彼らの活躍を見たいと思ってしまいますね。

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★★★

世 界 観 ★★★★★★

オススメ度 ★★★★★

天の夜曲 ひょうちゃん作目次

*勘のいい人にとってはこの程度でもネタバレになるかもしれません。

もし不安であればこの先は見ないでください。

 

第一章 松坂家の富山生活

第二章 富山の環境が与える房江への影響

第三章 西条あけみの大火傷

第四章 森井博美(西条あけみ)との長崎行

第五章 久保の裏切り