【フラゴナール】を褒める

《素早い筆遣いで自由奔放な表現を開拓したロココ最後の花》

レンブラント・ルーベンスらに代表されるバロックと、アングル・ダヴィッドに代表される新古典主義の間に、自由で優美で瀟洒なロココがあります。その評価は他の時代に比べてやや厳しめのような気がします。今日紹介するロココの画家フラゴナールの代表作に「ぶらんこ」という絵があります。この絵は「官能的で破廉恥」とよく評されていますが、私にはあまりピンと来ません。説明されれば、わからないでもないのですが、他にももっとスキャンダラスな作品はありますし、生々しく肌の露出を扱った作品もあるからです。個人的にはフラゴナールをもっと多くの人に見てもらいたいし、賞賛してもらいたいなと常々思っていました。そういう意味で、今日もまた専門的解釈からは外れるかもしれませんが、心おきなくフラゴナールやロココを褒めまくりたいと思います(開き直ってますw)

フランスの農業地域・プロヴァンス地方に生まれたフラゴナールはその豊かで多彩な風景の中で育ちました。それは後の華麗な背景の土台となっているのではないでしょうか。牧歌的で陽気で屈託のない気質が育まれたのだと想像します。そんなフラゴナールは最初、当時人気絶頂にあったブーシェに弟子入りをします。ブーシェはフラゴナールの才能に着目し、ローマ賞への応募をすすめました。結果、フラゴナールは見事に賞を射止め、ローマへ渡ることとなります。ブーシェやるなあ。

しかしながらローマにてフラゴナールは挫折を味わいます。ラファエロやミケランジェロといったルネサンス期の巨匠の作品に圧倒され自信を失ったのです。当時はルネサンスに寄せた作品が多く評価される中、短気であったフラゴナールはこれらの模写に不向きであり、結果としてルネサンス美術に対する苦痛を感じたのでした。そもそもフラゴナールは「待ち焦がれた時」にも見られる数本の線でさっと形を描き素早い筆遣いで軽く仕上げる手法を得意としていました。この手法は作品に活気を与え、同時に彼独特の幻惑的なぼかしにつながり官能性を感じさせることに成功したのでした。(あ、私は官能的とか思ってないんですけどね(^_^;))絵の具も猛烈なスピードで塗られており疾走感をも感じます。主題に合わせて作風を変え、幻惑的なぼかしを思わせる手法で劇的な作品を次々に世に送り出したフラゴナール。とにかく作品を仕上げるスピードが尋常ではなく、その素早い筆遣いにより実現したスケッチ風の筆致は、見ている側に幸せさえ感じさせてくれます。けれどもこれはバロックにおける活力ある質感、動的な量感、大胆で劇的な画調と相反し、邪道とされてしまったようです。

そんな中サン・ノン修道院長の庇護もあり支援される中で「コリロエーを救うために自害する大祭司コレシェス」が瀟洒で自由な生活を好む貴族たちの間で話題となり、フラゴナールは一躍有名となったのです。そして舞い込む官能依頼の数々。誰もが断るこれらのテーマを嫌がることなくこなしたフラゴナールは、ルネサンス美術の枠にはめられない、そしてアカデミーでは許されないような作品をパトロンたちのために手掛けたことでWinWinの関係を築くことができたのです。ウィットが生きたユーモアは足枷にはめない自由な想像力で、“愛すべきフラゴ”として時代の寵児となったのでした。しかし同時に、破廉恥だとの悪評もついてまわります。

そもそも「ぶらんこ」はそんなにも破廉恥だったのでしょうか。よく見る解説では、サンダルが脱げた素足がよくない、これは同時に社会道徳からの逸脱も差している、とか、スカートのひるがえりが誘惑を表している、とか、愛の神クピド像が口に指をあてており「内緒の恋愛を示唆している」(確かに浮気相手がぶらんこを動かしている構図ではある)、とか。しかしながら私はこれらの批判が全て褒めポイントに変わるように思えてしまいます。作品の中に暗喩をいれるのはどの時代においても見られることだと思っていますし、それは絵画を見る楽しさの一つでもあります。官能的なものをそのまま表現するよりは、像や衣服を使うことのほうが慎ましいようにも思えます。その点でいうと印象派絵画がより衝撃的だったのは納得できるのですが。そして何より、フラゴナール自身は決して性に奔放だったわけではないのです。フラゴナールはむしろ、当時の貴族たちの享楽を描いたのであって、そういう意味ではその試みは成功していたと思います。しかも巧みな光と影の表現によって三角構図を見事に活かし(これは嫌っていたルネサンスによく見られた構図というのも面白い)、放射状の流れる曲線によって作品をより柔らかく整えているように感じました。

しかしこの後、時代は革命を迎え、ロココの隆盛は終焉を迎え新古典主義へと移り変わります。それこそフラゴナールの嫌ったルネサンス美術への回帰であり、あっという間に凋落した彼は人々の記憶から忘れ去られてしまったのは残念なことです。

おすすめ10選

『ぶらんこ』

 

『待ち焦がれた時』

『魔法の森のリナルド』

 

『恋文』

 

『ベッドで犬と遊ぶ娘』

『ティヴォリのヴィラ・デステの庭』

 

『ピエロに扮した少年』

『家族の情景』

『閂』

『病をなおす聖ジュヌヴィエーヴ』