【2019年読書ランキング】で褒める
2019年読書ランキング
- 『ノースライト』横山秀夫
- 『源匣記~獲生伝~』矢野隆
- 『雨に消えた向日葵』吉川英梨
- 『夏の騎士』百田尚樹
- 『ノーサイド・ゲーム』池井戸潤
- 『ムゲンのi』知念実希人
- 『線は、僕を描く』砥上裕將
- 『希望の糸』東野圭吾
- 『競歩王』額賀澪
- 『落花』澤田瞳子
- 『欺す衆生』月村了衛
- 『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ
- 『生命式』村田沙耶香
- 『時空旅行者の砂時計』方丈貴恵
- 『罪の轍』奥田英朗
それぞれの一言コメント
※基本的にネタバレは含みませんのでご安心ください、それでも気になる方はここからは読まないでください。
①「ノースライト」横山秀夫
横山秀夫氏の新境地であり新たな代表作。美しいストーリーだけでなく、サスペンス要素もふんだんに盛り込まれて、夢中になって読むことができる。しかし素晴らしいのは結末への展開。いまだかつてこんなに見事なクロージングに出会ったことは無かった。この作品に出会えたこと自体がこの年一番の喜びだった。
②「源匣記~獲生伝~」矢野隆
「十二国記」のような壮大なストーリーがここにも。心揺さぶる英雄伝が登場した。世界観が見事でその設定が大変面白い。ただ物語の神髄は英雄たちの数奇な運命と尊い絆にある。描写も緻密で丁寧でリアル。圧倒的なリーダビリティで、かつての名作「新世界より」「獣の奏者」を思い出させてくれた。
③「雨に消えた向日葵」吉川英梨
警察物は数多くあれど、ここまで群を抜く作品はなかなかお目にかかれない。地道な捜査、全く糸口を見せない事件の真相。息がつまり胸が痛くなる展開の中、残り50ページをきっても事件は解決を見ない。読者でありながら、本当にあきらめた。そしてまさかの事件解決に心から喜び涙した。こんな体験は二度とできない。
④「夏の騎士」百田尚樹
百田氏最後の作品という触れ込みが真実かどうかはともかく、この作品自体、とても読みやすく好感の持てる青春小説であった。ノスタルジックな世界観は年齢を重ねるほど深い味わいを醸し出すであろう。そして痛快な展開。自分にもこんな時代があったと懐かしめる。決して大作ではないが超優良作品としてオススメの一作。
⑤「ノーサイド・ゲーム」池井戸潤
ラグビーW杯日本大会におけるジャパンの快進撃に沸いた2019年。空前の大ブームに先駆けて発売されたこの作品、そしてドラマ化が与えた影響は計り知れない。池井戸作品らしく、ビジネスの観点から社会人ラグビーのあり方を問い詰めながらも、その熱き魅力を余すところなく伝えた素晴らしい作品だった。
⑥「ムゲンのi」知念実希人
ファンタジー要素がてんこもりになっている上巻からミステリの面白さを堪能させてくれる下巻へと上下巻で全く違う作品かと思えるくらいの急展開。そしてそれでいて見事に着地させる手法はかなりの技術だった。いささか突飛な設定は読者を選ぶかもしれないが、その世界観の中で人を想う人間模様がとても美しい。
⑦「線は、僕を描く」砥上裕將
美しい作品という点ではこの作品は比類無きものと言えよう。水墨画という馴染みのない題材を取り扱い、見事にその世界をわかりやすく紹介してくれている。そして芸術の素晴らしさを無理なく伝えることに成功。加えて優れた青春小説であり、漫画化や映画化などで話題をさらった作品。
⑧「希望の糸」東野圭吾
近年の東野作品は読み手に大きなインパクトを残すものが少なくなっている反面、しっかりと深く考えさせられるものが多くなってきたように思える。すでに知名度の高い加賀恭一郎の外伝的作品ながら、家族の関係に踏み込んだ読み応えのある一作であり、繋がっていた見えない糸は希望の糸に他ならなかった。
⑨「競歩王」額賀澪
本来であれば東京五輪に向けてマイナー競技の裾野を広げる作品になれたかもしれない作品。競歩という知名度の低いスポーツの理解が進んだ。あの奇妙に見えるフォームが理解できるのは収穫。ストーリーはテンポよく進み、わかりやすく予想できるベタな展開ながら、それこそが青春小説の良いところだと再認識できるだろう。
⑩「落花」澤田瞳子
個人的にとても興味のあった平将門。取り扱う作品が少なくとても期待して呼んだのだが、将門自体はあまり主人公的な立ち位置ではなかった。寛朝という僧侶の生涯を通して描く、歴史小説というより時代小説に近い作品。人間の執着をうまく表現しており、さすがと唸らされる内容だった。
⑪「欺す衆生」月村了衛
久しぶりの本格派ノワール作品ではないだろうか。馳星周、新堂冬樹に負けず劣らず真っ黒な作品だった。はっきり言って救いがないので、苦手な方、正義感の強い方は手を出さない方が良いかもしれない。月村作品特有の重く硬質な文体とあいまって、その存在感は圧倒的なものとなった。取り扱い注意の問題作。
⑫「美しき愚かものたちのタブロー」原田マハ
日本が世界に誇る国立西洋美術館。その創立には多くの熱き男たちの知られざる闘いがあった。日本に美術館を作りたいという夢に向かって実業家やコレクター、美術史家、政治家までがつながっていく。これが見事な近代時代小説として完成させられるのだから原田作品はすごいというしかない。
⑬「生命式」村田沙耶香
私たちの常識を根底から覆す大いなる挑戦作。村田ワールドの広がりをもはやとどめることはできない。読みながらつい常識的判断をくだしている自分がいて、想像力の貧困さを嘆かざるを得なかった。今作が好きな方には藤子不二雄氏の「ミノタウロスの皿」をぜひとも読んでいただきたい。
⑭「時空旅行者の砂時計」方丈貴恵
世界観はとても面白く、新しいタイムトラベルのSFミステリとして楽しめた。触れ込みがあまりに風呂敷を広げすぎた感があるのと、強引な展開はあるものの、素直に古典的な本格ミステリとして読めば十分楽しめるものとなっている。館もの、見立て殺人、密室空間など基本に沿った設定であり読後感も悪くない。
⑮「罪の轍」奥田英朗
同じ奥田作品の中に、東京オリンピックを舞台に誘拐事件を扱った作品(「オリンピックの身代金」)があるが、こちらは事件そのものや時代背景を主眼としていたのに対し、今作は犯罪者の心理や人生に迫ったドキュメント的な手法をとっている。これが成功し一気読み必死の大作となった。ただ読後の心がわびしくてたまらない。
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