【ゴーギャン】を褒める

2022年6月14日

《貧しさに翻弄された非現実色彩の使い手》

原田マハさんの小説『リボルバー』でゴッホと共にゴーギャンのことが書かれているようです。壮絶な生涯を送って、後世に鮮烈な印象を与えているゴッホに比べ、ゴーギャンはその相棒として知られてはるものの、あまり語られることがないようにも思います。
今回はそんなゴーギャンを褒めようと思っています。

もともと証券仲介人として、安定した生活、保証された未来を手にしていたゴーギャン。子供にも5人の子供にも恵まれ幸せ絶頂でした。彼は好きだった絵を描くことを日曜画家のように楽しんでいたようです。しかし、その作品が数々の賞を獲得したり、売れ行きも悪くなかったことから、妻に相談もせず会社を辞めてしまったのでした。ん、なんだか雲行きが怪しいですね(^_^;)、そんなこと一言奥さまに相談すればいいのにね。

ここからゴーギャンの人生は暗転します。株式の大暴落を受け、そもそも作品が売れなくなり、収入がなくなり、あっという間に彼の貯えは底をつき、一文無しになってしまいました。一説には餓死寸前にまで追い込まれたようです。財産を失ったゴーギャンはパリでの生活をあきらめ、パナマ行きを決意、しかし熱病にかかりあきらめ、故郷のブルターニュへ戻ります。その時、パリで一緒だったゴッホの招きを受け、アルルへ向かうも偏屈なゴッホについていけずゴッホと訣別。私生活では浮上の糸口を掴めません。その後、創作意欲を掻き立てられた熱帯地方への熱望からタヒチへ。一度はフランスへ戻るも再びタヒチにわたってからはもう戻ることはありませんでした。しかし貧しさは変わらずマルキーズ諸島へアツオナの村にて54歳の生涯をとげることになりました。

毎回、思うのですが、画家さんの生涯だけを追っかけていくとなかなか褒めるポイントを見つけられなくて困ります。けれども、その褒められない人生と作品を並べると驚くことに褒めポイントが次から次へと出てくるものですね。

上記のように生涯、貧しさから脱却できなかったゴーギャンはその貧しさゆえに、絵の具などを無駄にすることができませんでした。またキャンバスさえ手にいれることができなかったゴーギャンは粗末な麻に描くこともしばしばだったようです。結果として、絵の具を平面に塗り伸ばした、同一色の薄い単色を用いざるを得なかった事情がありました。これでは、印象派絵画のような、様々な試行や挑戦ができなくなってしまったのです。そこでもともと印象派に限界を感じていたゴーギャンはあえて抽象的な世界を求めだし、非自然主義的な表現に走り出したのでした。実際に目の前にある色を使うのではなく、理念や感情を元にインスピレーションを感じ、それを元に作品を完成させたのです。だから、ゴーギャンの作品は他の画家よりとても平面的で二次元だと思いませんか。そう、奥行きがほとんどないのです。そして、通常化あまり使われないピンクや深い青(青や黒は印象派ではあまり使われない)が重宝され、エキゾチックな世界を描き出したのです。その舞台として熱帯地方のタヒチやマルキーズ諸島の村というのは、ぴったりだったのでしょう。

彼は結局貧しくて画材道具を揃えられない逆境を呪うのではなく、そこから後期印象派の礎となる新しい世界を生み出したのが凄いのです。これにより、世の中の価値基準は、外見を中心に目に入ってくるものを描くことから、より内面世界の感性をいかに表現するかに変わっていったのです。パリのように洗練された街と違い、自然の中に生み出されるみなみたいへいようの文化こそが、ゴーギャンの才能を開花させる場所だったのです。そのように踏まえて、いささか妙な色使いをしているゴーギャンの作品に向き合うと、なんと神秘性を帯びていることか。

彼はその後も思い悩み、ゴッホと同じく何度も自殺も何度も試みたようですが、最後の大作

『我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか』

この大作にエネルギーを投入することで、そのような迷いを払拭したようです。
作品の、右部分に「どこから来たのか」
中央部分に「何者なのか」
左部分に「どこへ行くのか」
神秘の宗教的世界の結実がこの作品に現れているかのようです。

ゴーギャンは後期印象派の画家でありながら、西洋絵画に疑問を抱き、その否定がかれの困窮した生活から新しい芸術の系譜を作り出したとするなら、彼の生き方は疑問どころか、運命・宿命であったようにも思えます。そして、決して楽ではないその宿命を受け入れたゴーギャンもまた、褒められるべき素晴らしい画家の一人であると私は思うのです。

 

おすすめ10選

『我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか』

『黄色いキリスト』

 

『緑のキリスト』

 

『神の日』

 

『アレアレア』

 

『浜辺の騎手たち』

 

『市場にて』

 

『白い馬』

 

『説教のあとの幻影』

 

『海辺に立つブルターニュの二少女』

その他の作品(大塚国際美術館より)

『美しきアンジェ―ル』

 

『ヴァイルマティ』

『マリアを拝む』

『光輪のある自画像』

『自画像(レ・ミゼラブル)』