【『犬がいた季節』伊吹有喜】を褒める

2021年6月19日

読了後の感想(過去の読了分:3分で読めるよ)




2021年度の本屋大賞3位の作品です。連作短編の形を取り、一話ごとに主人公と年代が変わります。最終話でそれらのメンバーが集結するのですが、そこに時間軸が昭和から令和に流れていることで、彼らのその後の人生まで明らかになるという仕掛けが功を奏したとても好感の持てる作品です。私は読後、とても気持ちの良いため息をつきましたね。

進学校の進んだ塩見優花は美術部の早瀬光司郎の席に座っていた犬を“コーシロー”と名付け、飼い主を探すものの見つからず自分たちで飼っていくことを決め「コーシローの世話をする会」を発足。ここから物語は、ゆっくりと長い年月をかけて紡がれていきます。1話では淡い恋心と進路に悩む女子高生の姿、2話では苦手な友人と偶然見つけた共通の趣味であるF1を通して培われる友情、3話では阪神大震災や地下鉄サリン事件を通して浮き彫りになる未来への不安、4話では同級生の知られざる一面を知ったことで変わっていく価値観、5話ではノストラダムスの予言におびえながらも成長することの尊さを描くという、味のある構成が魅力です。少し脱線してしまいますが、私たち昭和生まれのものにとって、この「ノストラダムスの大予言」結構、身につまされたリアルな危機でした。何も起こらなかった(実際には2000年7月だとか付け足しの予言もあったりした)とはいえ、まったくもって大迷惑な予言でしたね(^_^;)。本気で「○歳で死んでしまうかもしれないからそれまでに○○しなきゃ」とか考えてましたからね。

最終話での登場人物たちの邂逅はなんとも感慨深いもので、読み手からすると読了のご褒美のような嬉しい気持ちをプレゼントされる感じでしたね。単行本の装丁に秘められた仕掛けに、私は後日気づいてホロッとさせられました。まだその仕掛けに気づいてらっしゃらない方は、もう一度単行本を手に取って、何かないか探してくださいね。

短編でありながら、読み手に深い心情の共有を与えるだけでなく、時代背景を見事に扱いながら一つの作品に仕上げたことに驚かされました。昭和を生きた方からすると懐かしさがこみあげ、平成を生きた方からすると自分の人生を重ねながら読めるのではないでしょうか。令和を生きた方は・・・まだこの本読めませんねw

簡易レビュー

読みやすさ ★★★★★★

面 白 さ ★★★★★

上 手 さ ★★★★★

世 界 観 ★★★★

オススメ度 ★★★★★